介護現場のICTとは?導入事例や補助金、メリット・デメリットを解説

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介護のICTとは?導入事例、メリット、最新の補助金情報

高齢化社会による介護需要の増加、介護現場の人材不足などの課題から、介護施設・事業所ではICTによる生産性の向上、業務の効率化が求められています。この記事では介護現場のICT導入事例のほか、メリット・デメリットなどの情報をまとめました。介護現場にICTを導入したい介護施設・事業所に向けて導入手順や補助金についても解説します。

介護現場のICTとは

ICTとは「情報通信技術(Information and Communication Technology)」という意味で、ネットワークを通じて情報を活用し、業務や現場内のコミュニケーションの効率化を図れる機器を指します。介護現場で活用できるICT機器には、具体的に以下のような種類があります。

  • 介護ソフト
  • シフト管理システム
  • 勤怠管理システム
  • 見守りシステム
  • タブレット端末・スマートフォン
  • モバイルPC
  • Wi-Fi機器

たとえば、シフト管理システムでシフト作成を効率化したり、見守りシステムで夜間帯のリスクマネジメントを強化したりなど、さまざまな場面でICT機器は役立ちます。

介護現場でICTが必要な理由

日本は少子高齢化による人材不足が問題となっており、介護分野も例外ではありません。さらに高齢者の増加に伴い介護需要が高まり、2040年度には約272万人の介護職員が必要といわれています。

現在、介護現場の人材は、非正規雇用者に大きく依存しており、訪問介護サービスにおいては60歳以上の社員が多い傾向も見られます。人材不足への対策を行わないと、今後さらに少子高齢化が加速するなかで、経営を続けることが困難になる可能性が考えられます。

その対策のひとつに挙げられるのが、ICT機器の導入です。ICT機器の活用により業務を効率化できれば、限られた人材で質の高いサービスの提供を実現することが可能になります。

厚生労働省のICT導入支援事業の資料によると、ICT機器を導入した企業から「文書作成の時間が短くなった」「情報共有がしやすくなった」など生産性の向上に効果を感じる声が寄せられています。また、人材定着においてもICTは重要です。ICT機器により生産性を高め、働きやすい魅力的な職場づくりを進めることで、離職防止や採用などへも効果を発揮すると考えられます。

介護現場のICT導入事例

実際に介護現場ではどのようにICT機器が活用されているのか、3つの事例をもとに解説していきます。

事例①人事・シフト・勤怠管理をDX化し、経営改善に成功

デイサービスやショートステイなど複数の介護サービス施設を運営する大手介護事業所では、1万人もの従業員の人事・シフト・勤怠管理が煩雑になっていました。

これまで紙や手計算で管理していたこれらの業務をデータ化するべく、シフト管理システムや勤怠管理システムなど複数のソフトを連携させたICTツールを導入し、人事・シフト・勤怠管理業務のDX化に成功しました。

人事・シフト・勤怠をワンストップで管理できるようになり、事務作業の時間を大幅に削減できたとともに、シフトの見える化によって適切な人員配置へつなげています。今後は作業時間の短縮により捻出できた時間を、利用者のケアや従業員のスキルアップの時間に充て、生産性向上を目指していく考えです。

事例②介護記録ソフトを導入し月末集計時間を4時間削減

埼玉県の通所介護では介護記録を紙に記入して管理しており、連絡帳などへの転記作業に多くの時間を要していました。倉庫の書類保管スペースを減らしたいという思いもあり、パソコンとタブレット端末で操作できる介護ソフトを導入することに決めました。

タブレット端末から介護記録を入力すると、自動で連絡帳が作成されるソフトのため、転記作業の手間がなくなり、連絡帳の作成時間が1日あたり30分ほど削減できたといいます。その結果、職員に心の余裕が生まれ、利用者をケアする時間も増えました。

さらにデータ化により、管理者が月末に情報をまとめるための集計時間が約4時間も減りました。保管する書類の量も1割ほど減らすことができ、管理のしやすさにもつながっています。

事例③見守り機器により夜間の訪問回数を軽減

宮城県の特別養護老人ホームは建物の構造上、職員の動線に問題があり、夜間のケアの質が低下していました。ケアの質の向上および、職員の負担を軽減するために、補助金を活用して見守り機器を導入しました。

睡眠データを収集するシステムと見守りカメラの導入により、巡視や訪室回数が抑えられ、その分の時間を対応が必要な利用者にあてることができるようになったといいます。さらに認知症の利用者の睡眠データと、居室内の様子を担当の医師に具体的に共有できたことで、今後のケアにも活かせるようになりました。

カメラなどの見守り機器の導入に抵抗感のある利用者・家族も少なくありません。こちらの事業所では、「より根拠のあるケアを行うため」と導入の目的をしっかり伝えることで、利用者とその家族から理解を得たといいます。

介護現場にICTを導入するメリット

介護現場にICT機器を導入するメリットは業務の効率化です。具体的にはICT機器によって情報共有がスムーズになったり、記録時間を削減できたりなど、業務の改善につながることが期待されます。作業時間が短縮できれば、その時間を利用者のケアにあてられ、介護サービスの質の向上も目指せるでしょう。さらに職員の負担が軽減でき、働きやすい職場となることで人材の定着や採用にも好影響がもたらされるなど、さまざまなメリットが考えられます。

厚生労働省の調査資料によると、導入した企業の半数以上が1年目で「0~30分」または「30~60分」の作業時間の短縮に成功したと報告されています。また、全体の52.0%がICT機器の導入により削減できた時間を利用者とのコミュニケーションの時間にあてられたなど、着実に生産性の向上につながっていることが確認されています。

介護現場にICTを導入するデメリット

ICT機器の導入は生産性の向上が目指せる一方で、ICT機器を使いこなすための教育や導入コストなどの負担がデメリットとして考えられます。厚生労働省の資料によると、ICT機器導入の課題について「パソコンやソフト、システム等の導入のための費用補助(全体の89.8%)」、「パソコンやソフトに対する職員の苦手意識の解消、職員への研修等(89.5%)」などが挙げられています。

ICT機器を現場で使いこなせるか不安な場合は、サポート体制が整ったベンダー(販売業者)を選ぶと良いでしょう。導入コストに関しては補助金が活用できます。補助金については記事の後半で解説します。

介護現場にICTを導入する手順

ICT機器の導入に失敗しないためにも、導入計画や現場の環境整備などを事前に行ったうえで取り入れることが重要です。以下の手順を参考にICT機器の導入を進めましょう。

1 検討 プロジェクトチームを作り、課題抽出を行う。改善するべき課題と、必要なICT機器を検討し、導入計画を立てる。
2 準備 複数のサービスを比較し、導入機器を決める。ICT機器を導入するにあたって現場のオペレーションや活用ルール、環境の整備などの準備を行う。導入効果の評価方法もこの時点で検討しておくこと。
3 試用 利用者やその家族、職員へICT機器の導入について説明する。本格的な導入の前にデモ機などを借りて試用し、問題点があればあらかじめ解決しておく。
4 運用 本格導入をスタートさせる。定期的に効果検証を行い、その都度、改善活動を繰り返しながら現場への定着を目指す。

【補助金】令和6年度ICT導入支援事業

厚生労働省では、介護テクノロジーの導入を推進しており、介護施設・事業所は補助金を活用できます。この補助金は介護ソフトやタブレット端末などのICT機器が対象です。ICT機器における1事業所あたりの補助率は導入費用の3/4~1/2で、都道府県により条件は変わります。ただし補助の上限額は、職員数に応じて以下のように定められています。

職員数 補助上限額
1名以上10名以下 100万円
11名以上20名以下 160万円
21名以上30名以下 200万円
31名以上 260万円

ICT導入補助金のほかにも、介護ロボットが対象となる補助金もあります。現在はICTと介護ロボット両方の導入を推進する「介護テクノロジー導入支援事業」として補助金申請を受け付けている自治体もありますのでご注意ください。

また、補助金の申請には、生産性向上の取り組みをまとめた計画書を提出する必要があります。そのほか都道府県によって要件が定められているため、よく確認しましょう。

自社に合うICT機器を導入し介護現場の生産性向上を

ICT機器にはさまざまな種類があり、機能も異なります。介護現場にICT機器を導入する際は、サービスをよく比較検討し、かつ現場での活用方法や体制を整えたうえで導入することが重要です。

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