特定処遇改善加算は、2021年の介護報酬改定で配分ルールが一部変更になっています。算定要件や算定率、計算方法などをわかりやすく説明し、複雑な配分ルールも解説しますので、算定を検討している事業所は、ぜひ参考にしてください。
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目次
特定処遇改善加算とは
特定処遇改善加算とは、介護人材確保のため経験・技能のある職員に重点を置きながら、介護職員の更なる処遇改善を進める制度です。
介護業界は他産業と比較すると賃金水準が低い傾向にあるため、重点的な処遇改善が必要と考えられて設けられました。勤続10年以上の介護福祉士について、月額で平均8万円以上の処遇改善を行うものです。
この加算は、従来の介護職員処遇改善加算に上乗せして加算されるもので、区分はIとIIに分かれています。全体的なイメージは、下の図を見ると分かりやすいでしょう。
上の図のように、事業所が処遇改善加算のどの区分を受けているかにより、加算される金額が変わります。
なお、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(令和3年11月19日閣議決定)を踏まえ、2022年10月以降については令和4年度介護報酬改定が行なわれ、介護職員の収入を3%程度(月額9,000円相当)引き上げるための「介護職員等ベースアップ等支援加算」が新設されます。
特定処遇改善加算の算定要件
特定処遇改善加算の算定要件は、大きく3つに分かれています。
- 処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅲ)のいずれかを取得していること
- 処遇改善加算の職場環境等要件に関し、複数の取組を行っていること
- 処遇改善加算に基づく取組について、ホームページ掲載等を通じた見える化を行っていること
引用:処遇改善に係る加算全体のイメージ(令和4年度改定後)|厚生労働省
3つの要件すべてを満たすことが求められるため、漏れのないようにチェックが必要です。要件1は、介護職員処遇改善加算(I)~(III)の算定が条件になっています。
要件2に挙げられている職場環境等要件とは、6つの区分の取組のうち、複数の区分で1項目以上の取組を行うこととされています。
要件3は2020年度から追加となった要件で、所定の情報を公表していることが条件です。見える化要件についての取り組みについて、介護サービス情報公表制度を利用して、外部から見える形で公表する必要があります。
介護サービス情報公表システムの対象になっていない事業所は、ホームページを活用して、公表することで代用できます。
職場環境等要件について
要件2の職場環境等要件は、下の一覧表で確認してください。
区分 | 具体的内容 |
---|---|
入職促進に向 けた取組 | ・法人や事業所の経営理念やケア方針・人材育成方針、その実現のための施策・仕組みなどの明確化 ・事業者の共同による採用・人事ローテーション・研修のための制度構築 ・他産業からの転職者、主婦層、中高年齢者等、経験者・有資格者等にこだわらない幅広い採用の仕組みの構築 ・職業体験の受入れや地域行事への参加や主催等による職業魅力度向上の取組の実施 |
資質の向上や キャリアアッ プに向けた支 援 | ・働きながら介護福祉士取得を目指す者に対する実務者研修受講支援や、より専門性の高い介護技術を取得しようとする者に対する喀痰吸引、認知症ケア、サービス提供責任者研修、中堅職員に対するマネジメント研修の受講支援等 ・研修の受講やキャリア段位制度と人事考課との連動 ・エルダー・メンター(仕事やメンタル面のサポート等をする担当者)制度等導入 ・上位者・担当者等によるキャリア面談など、キャリアアップ等に関する定期的な相談の機会の確保 |
両立支援・多 様な働き方の 推進 | ・子育てや家族等の介護等と仕事の両立を目指す者のための休業制度等の充実、事業所内託児施設の整備 ・職員の事情等の状況に応じた勤務シフトや短時間正規職員制度の導入、職員の希望に即した非正規職員から正規職員への転換の制度等の整備 ・有給休暇が取得しやすい環境の整備 ・業務や福利厚生制度、メンタルヘルス等の職員相談窓口の設置等相談体制の充実 |
腰痛を含む 心身の健康管 理 | ・介護職員の身体の負担軽減のための介護技術の修得支援、介護ロボットやリフト等の介護機器等導入及び研修等による腰痛対策の実施 ・短時間勤務労働者等も受診可能な健康診断・ストレスチェックや、従業員のための休憩室の設置等健康管理対策の実施 ・雇用管理改善のための管理者に対する研修等の実施 ・事故・トラブルへの対応マニュアル等の作成等の体制の整備 |
生産性向上の ための 業務改善の取 組 | ・タブレット端末やインカム等のICT活用や見守り機器等の介護ロボットやセンサー等の導入による業務量の縮減 ・高齢者の活躍(居室やフロア等の掃除、食事の配膳・下膳などのほか、経理や労務、広報なども含めた介護業務以外の業務の提供)等による役割分担の明確化 ・5S活動(業務管理の手法の1つ。整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字をとったもの)等の実践による職場環境の整備 ・業務手順書の作成や、記録・報告様式の工夫等による情報共有や作業負担の軽減 |
やりがい・ 働きがいの醸 成 | ・ミーティング等による職場内コミュニケーションの円滑化による個々の介護職員の気づきを踏まえた勤務環境やケア内容の改善 ・地域包括ケアの一員としてのモチベーション向上に資する、地域の児童・生徒や住民との交流の実施 ・利用者本位のケア方針など介護保険や法人の理念等を定期的に学ぶ機会の提供 ・ケアの好事例や、利用者やその家族からの謝意等の情報を共有する機会の提供 |
引用:処遇改善に係る加算全体のイメージ(令和4年度改定後)|厚生労働省
令和3年度3月31日までは、6つの区分のうち、3つの区分で1項目以上の取組を行えばよいとされていましたが、令和3年介護報酬改定に伴い変更され、新しい要件では複数の区分でそれぞれ1項目以上の取組を行う必要があります。
実際の算定額の計算方法
特定処遇改善加算は(I)と(II)の区分があり、加算(I)はサービス提供体制強化加算等の最上位区分を算定している場合に算定が可能です。
サービス提供体制等強化加算とは、介護職員の専門性やキャリアに注目して、サービスの質が高い事業所を評価する加算です。
特定処遇改善加算の加算率
特定処遇改善加算の加算率は下の図のようになっています。加算率は、加算(I)と(II)、サービス区分によって変わります。現行の処遇改善加算に上乗せされるため、合計すると高い割合になります。
たとえば訪問介護事業所で特定処遇改善加算(I)を取った場合、現行の処遇改善加算が(I)であれば、合計で20%の加算を取ることができます。
特定処遇改善加算の計算の例
具体的に特定処遇改善加算の計算を、例に沿って紹介します。
【例】通所介護事業所、特定処遇改善加算(I)で試算 1回平均750単位、1月のべ利用数720人(30人×25日と仮定)※1単位10円 1月の総単位数540,000単位×加算率1.2%×10円=加算見込み額64,800円 |
通所介護事業所の加算率は(I)の場合1.2%になっています。月の利用総単位数に、加算率と10円をかけたものが、特定処遇改善加算の見込み額となります。その他の事業所は、上の表で加算率を確認しましょう。
特定処遇改善加算の配分ルール
特定処遇改善加算の配分ルールは、2021年の法改正で一部変更になりました。下の表におけるグループ(A、B、C)は、職員のキャリアにより分類されています。
Aの職員のうち一人以上は月8万円アップ、もしくは年収440万円まで賃金をアップさせることや、配分のバランスもルールで定められています。配分ルールは一見複雑に見えますが、例をもとに簡単に試算できますので、お試しください。
基本的な分配方法を通所介護事業所の例で見てみましょう。基本的な分配方法は「A:B:C=4:2:1」となっています。職員構成による人数と、その比率をかけ合わせていくことで、具体的に分配できる金額を出すことができるのです。
【例】職員構成 A:経験・能力あり介護福祉士 2名 B:その他介護職員 6名 C:その他職種 4名 計:12名 加算見込額64,800円 |
4:2:1の割合で2名:6名:4名に分配
(4×2)+(2×6)+(1×4)=24
64,800÷24=2,700
上の計算式によって、Aは10,800円、Bは5,400円、Cは2,700円という金額が導き出せます。
処遇改善加算との違い
特定処遇改善加算と処遇改善加算は、どちらも介護職員の処遇改善を通して労働環境などを改善させたいという狙いは同じです。大きく違うところは、処遇改善加算が職員全体の処遇を改善するものであるのに対し、特定処遇改善加算は「経験や技能のある職員」への主に処遇改善を目指している点です。
従来、昇給のしくみ作りが難しいといわれる介護業界。長く働き、技能を向上させることで給料がアップするのであれば、職員のモチベーションアップとなり、そういった積み重ねが、職員の離職防止や優秀な人材の確保にもつながっていくと考えられます。
要件を満たして特定処遇改善加算等を算定しよう
特定処遇改善加算は経験や技能のある介護職員の給与のベースアップにつながる加算ですので、職場環境要件などを適正に満たし、算定を検討してみましょう。経験や技能のある介護職員の処遇改善によって、そのほかの職員のキャリアパスを明確にすることにもつながります。給与ベースが上がることは、人材確保もしやすくなるため、事業所としてもメリットは高いでしょう。
2022年8月からは、介護職員等ベースアップ等支援加算の申請が始まっています。これは、介護職員の賃上げ効果をねらう取組みとして、収入を3%程度、月額9,000円引き上げるというもので、10月からの臨時の報酬改定に伴う新加算です。2022年2月から9月分の一時的な措置の補助金として対応されている介護職員処遇改善支援補助金と同様に、都道府県へ所定の書類を提出することで申請が可能です。
介護職員の処遇改善に施設や事業所として取り組むことは、優秀な人材の流出を防ぐことにもつながります。日々の現場業務にはげむ介護職員に還元できるよう、ご検討ください。