介護事業を展開するためには、詳細に作成した事業計画書が必要です。しかし、初めて作成する方や既存の計画書の改善を図りたい方にとって、どのような項目を含めればよいのか、また、どのような構成が適切なのかと迷うこともあるでしょう。
そこでこの記事では、テンプレートとして活用できる事業計画書の記載方法、事業計画書の作成上の注意点などについて詳しく解説します。
介護事業を展開する際には、わかりやすくかつ説得力のある事業計画書の作成が成功のカギとなります。ぜひ、この記事を参考にして、自身の事業計画書の作成に役立ててください。
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目次
介護事業における事業計画書とは?
介護事業における事業計画書とは、介護サービスを提供する事業者が、事業を展開するための計画や目標をまとめた書面のことを指します。具体的には、今後の事業の方向性や目的、戦略、運営方法、予算、人員配置などに関する情報を記載します。
事業計画書を作成する目的
事業計画書を作成する目的は大きく分けて三つです。
一つ目は、事業の長期的な目標やビジョンを明確にし、組織全体で共有するためです。これにより、スタッフを含めた組織内の全てのメンバーが一体となって同じ目標に向かって取り組むことができます。
二つ目は、必要なリソース(予算、人材、設備など)を明確に把握し、効果的に活用するためです。事業計画書には、予算の割り当てや人員配置、営業計画などが含まれており、実際に経営していく上での指針となります。
三つ目は、金融機関から融資や借入を受けるためです。どんな事業をどのように展開するのかを明確にすることで初めて、融資の相談ができるようになります。また、訪問介護事業所や通所介護など、開業する事業形態によっては指定申請の際に事業計画書の提出が求められます。
書き方のコツとポイント
事業計画書を作成する際は、以下の三つのポイントを意識して書くようにしましょう。
- 目的と目標を明確にする
- 具体的な施策を提示する
- 評価指標を明確化する
事業計画書を作成する際は、なぜ開業したいのか、どのように事業展開していくのかなど、目的と目標を明確にする必要があります。さらに、その目的と目標を達成するために、どのような施策を考えているのかを具体的に説明することで説得力が高まります。
また、そのためにはスタッフの仕事に対する評価指標を明確にしておきましょう。上司が部下に対して仕事の評価をする機会があった場合に、明確な指標がないとトラブルの原因になることもあり得ます。
テンプレートとして活用!介護事業の事業計画書の書き方
介護事業における事業計画書を実際に書いてみようと思っても、どのように書いていいかわからない方もいるでしょう。そんな方のために、ここでは事業計画書に記載する項目と記載例を解説します。
経営理念
まずは、なぜ介護事業を展開したいのか、世の中に対してどのような価値を提供したいのか、事業の根底にある構想を明確にします。そして、介護の重要性や社会的な責任、利用者やそのご家族への思いなどを考慮し、事業への使命と価値観を表現した経営理念を決定、記載します。
経営理念は多くの人の目に触れる部分であり、融資の際にも金融機関担当者がよく目を通すところです。さらに、採用でスタッフが入社を決めるポイントにもなり得るので、事業に対する思いの丈を伝わりやすい内容にまとめましょう。記載例としては、「どんな価値観を大切にしているか」「どんな価値を提供していき、貢献したいか」を具体的に表現し、記載するのが一般的です。
組織図
組織図を作成することによって、自分が実際に関わっている部門だけでなく組織全体を把握できるようになります。職員は自分の役割や職務を理解しやすくなり、円滑な業務遂行とチームワークの促進が期待できるでしょう。
組織図は、下図のように誰が見ても分かるように、すべての部署や構成職員をわかりやすく明記しておくことが重要です。
経営戦略
経営戦略は、事業を成功させるための長期的な計画やビジョンのことを指し、市場や競合を考慮しながら作成します。介護業界は、地域の特性や競合などが大きく影響するため、それらを分析した上で考える必要があります。
分析結果をもとに経営戦略を作成するためには、SWOT分析が最適です。SWOTは、以下の4つを指しています。
プラス要因 | マイナス要因 | |
---|---|---|
【内部環境】 自社に要因があるもの 関係しているもの |
S:Strength(強み) | W:Weakness(弱み) |
自社が持つ強みや長所など | 自社が持つ弱みや短所など | |
【外部環境】 自社に影響を与える まわりの環境 |
O:Opportunity(機会) | T:Threat(脅威) |
社会や市場の変化で、自社にプラスの影響を与えること | 社会や市場の変化で、自社にマイナスの影響を与えること |
「自社に要因があるもの、関係しているもの(内部環境)の強み、弱みは何か?」「自社に影響を与える可能性のある(外部環境)プラスの要因や脅威は何か?」を整理し、強みを活かして弱みを克服していくという考え方を使うと、経営戦略を練りやすくなります。
テーマはより細かくした方が特徴を見つけやすいため、「自社について」ではなく、たとえば「自社の採用について」などといった粒度で取り組むことをおすすめします。
このように特徴を整理したのち、「1年後、3年後、5年後のゴールやビジョンは何か?」など将来的な見通しを立てる材料にするとよいでしょう。
経営目標
経営目標は経営戦略で掲げたビジョンを数値化したもので、達成すべき数値目標を掲げます。例として、以下の指標が挙げられます。
- 売上高、利益率
- 新卒採用者数、離職率
- 利用者満足度指数
記載例としては、「利益率〇%を目指す」といった書き方をします。ただし、やみくもに数値目標を決めるのではなく、新卒採用者数や離職率は毎年データを取るなど、数値には必ず根拠を添えるようにしましょう。
また、利用者満足度指数は、介護施設や事業所を実際に利用している利用者やご家族に対してアンケートを定期的に実施することで数値化が可能になります。さまざまな内容を数値化して分析することで、数値目標を立てやすくなるでしょう。
経営方針
経営方針は、経営者も含め全従業員が仕事をする上で心得ておくべき指針を明文化したものです。この指針に従い働くことで経営目標を達成し、経営ビジョンの実現へとつなげていくのが経営方針です。
記載例としては、「1年後、3年後、5年後のゴールやビジョンを達成するための手段・方法は何か?」など、全従業員が自社の方向性を理解でき、同じ方向を向いて働けるような内容にしましょう。また介護事業においては、3年に1度の介護報酬改定を踏まえて記載することも重要です。
研修計画
研修計画とは、スタッフの資質向上や職業教育の一環として策定される計画のことを指します。研修計画は、組織の経営目標や経営戦略と連動し、必要なスキルや知識を習得して業務効率やサービス品質を向上させるために実施されます。
記載例としては、「毎年〇月に研修を実施する」とし、その研修の対象者は誰か?管理者か?一般職員か?何の資格が取得可能か?何を目的にするのか?など、研修の実施時期や参加すべき対象者、具体的に学べる内容なども合わせて明記します。
会議体
会議体とは、組織内のスタッフや関係者が集まり、意思決定や情報共有、問題解決、議論などをするための組織です。たとえば、株式総会や理事会などが挙げられます。会議体には定期的に開催されるものと、特定の議題に基づいて開催されるものの二通りあり、組織の円滑な運営や意思統一を図るために必要な役割として存在します。
記載例としては、「毎月〇日に定例会を実施予定」「特定の議題に関しては、申し出があり次第必要に応じて会議を行う」など、会議体の種類ごとに明記します。
委員会体制
委員会体制とは、特定のテーマや課題に関する意思決定や検討を行うための組織形態を指します。複数のメンバーから構成される委員会は、専門的な知識や経験を持つ人々が集まって審議や提案をする場です。委員会は、設立目的や役割、範囲が一定期間定められ、組織内での重要な意思決定や活動の基盤となります。事業形態によって委員会の設置は、義務付けられています。
委員会の例としては、「広報委員会」「衛生委員会」「虐待防止委員会」「感染症防止委員会」「事故防止委員会」などが挙げられます。委員会それぞれで定期的に審議や提案を行い、問題解決を図ることで、事業の運営に役立てていくことを明記するようにしましょう 。
参考図書:大坪 信喜 著「福祉介護事業の経営者・施設長のための経営ノート」
介護事業の事業計画書を作成する上での注意点4つ
介護事業における事業計画書を作成する上での注意点を4つご紹介します。事業の運営や融資を受けるための材料として活用できるよう、以下のことに気を付けて作成するようにしましょう。
専門用語はなるべく使わず、わかりやすい言葉で伝える
事業計画書を作成する際は、専門用語はなるべく使わないようにしましょう。提出先として考えられる金融機関の融資担当者や投資家などが事業計画書を見たときに、専門用語が多いと内容が正確に伝わらなかったり、誤解を招いたりする恐れがあります。
専門用語が多い事業計画書は、融資審査においても悪影響を与えるリスクがありますので、誰が読んでもわかりやすい言葉で記載することを意識しましょう。
介護保険の運営基準や人員配置基準、設備基準を満たす
介護保険サービスを提供する場合、介護保険が定める運営基準や人員配置基準、設備基準を満たす必要があります。万が一満たさない場合、指定事業者と認められず介護保険サービスを提供できない恐れもあるので注意が必要です。
また、運営基準と人員配置基準、設備基準の内容は介護サービスの形態によって異なります。以下のような記事を参考にしながら、正しい基準を確認するようにしましょう。
あらゆるトラブルを想定し計画書に落とし込む
実際に介護事業を開始した後は、さまざまなトラブルが発生する可能性があるため、以下のようなトラブルシューティングを用意しておく必要があります。
- 施設内で食事を提供する際の要件
- 防災や防火のためにスプリンクラーや通報装置の有無、避難経路の確保などの確認
- 事故や災害、感染症蔓延などが起きたとき
- 職員が病欠などで休んだ日の対応や資金繰り
あらゆるトラブルを想定し、それに対応できる体制を事前に考え事業計画書に落とし込んでおけば、実際のトラブル発生時にも慌てずに済みます。
また、2024年4月までには、BCP(業務継続計画)と呼ばれる「自然災害や感染症の蔓延などが起きたときに、安定したサービスを継続して提供するための体制や方針をまとめた計画書」の策定が義務化されています。
生きた経営計画書として作成する
介護事業を経営するためには、制度や法律に則って実施しなければならないことが多くありますが、それらの内容が詳細に記載されていない事業計画書では意味がありません。
実際の経営で活用できるよう、ここまで解説してきた内容を踏まえた事業計画書を作成するようにしましょう。
テンプレートを活用して事業計画書を作成しましょう!
介護事業における事業計画書がどのようなものなのかを解説してきました。実際に作成するとなると何から手を付けていいかわからないという方は、第二章で解説した内容をテンプレートとして活用することで、迷うことなくスムーズに作成ができるでしょう。
事業に込めた思いから実際に経営していく上での目標や指標などをしっかり反映させ、今後の事業運営に活用可能な事業計画書を作成するようにしましょう。これから介護施設や事業所を開業しようと考えている方は、以下の記事も参考にしてください。