わかりやすい「変形労働時間制」とは?残業・休日の考え方、導入手続き

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わかりやすい「変形労働時間制」とは?残業・休日の考え方、導入手続き

変形労働時間制とは、一定の期間内において、特定の日または週に法定労働時間を超えた労働が可能となる制度です。 たとえば「フレックスタイム制」などは耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

「変形労働時間制で働いているけど悪用されていないか不安」と思っている労働者の方や、「変形労働時間制の導入を検討しているがよく分かっていない」といる事業者の方もいるかと思います。

本記事では、両者に向けて変形労働時間制における残業や休日の考え方、メリット・デメリット、悪用されていないかを確認するポイント、導入に必要な手続き(労使協定(36協定)、就業規則)についてわかりやすく解説します。


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目次

変形労働時間制とは?

変形労働時間制とは、繁忙期には所定労働時間を長く設定し、閑散期には所定労働時間を短くするという制度です。業務量に応じて労働時間を調整することによって、一定の期間の総労働時間を最適化することを目的としています。
 
変形労働制のなかでも種類があり、以下の表のように主に1ヶ月単位・1年単位・1週間単位など時間軸で定めるものと、出退勤の時間の自由度が高いフレックスタイム制の4つに分けられます。それぞれ残業や休日の概念が違いますので、一つずつ解説していきます。

  1ヶ月単位の
変形労働時間制
1年単位の
変形労働時間制
1週間単位の
非定型的
変形労働時間制
フレックスタイム制
休日の付与日数と
連続労働日数の制限
週1日または4週4日の休日 週1日 週1日または4週4日の休日 週1日または4週4日の休日
1日の労働時間の上限   10時間 10時間  
1週の労働時間の上限   52時間    
1週平均の労働時間 40時間
(特例44時間)
40時間 40時間 40時間
(特例44時間)
時間・時刻は会社が指示する  
出退勤時刻の個人選択制      
あらかじめ就業規則等で時間・日を明記    
特定の事業・規模のみ    
(労働者数30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店)
 

出典:厚生労働省 徳島労働局「変形労働時間制

1ヶ月単位の変形労働時間制

どのような制度?

1ヶ月単位の変形労働時間制は、1ヶ月以内の期間において、1週間あたりの平均労働時間が法定労働時間を超えない範囲内で、特定の日あるいは週に法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

どんな仕事で導入されている?

たとえば月初や月末、もしくは特定の週に業務が忙しくなるような職種に有効でしょう。具体的には長距離ドライバーや警備員、介護職などに採用されることが多くみられます。

労働時間の上限は?

労働基準法では、原則1日に8時間、1週間に40時間を超えた労働が禁じられています。ただし、特定措置対象事業場の場合は、1週間の労働時間を44時間とすることができます。

この場合、下記表の通り、月ごとの法定労働時間以内で就業時間を定めます。また、少なくとも毎週1日、または4週間を通じて4日以上の休日が必要です。

月の暦日数 法定労働時間の総枠
週の法定労働時間
40時間
週の法定労働時間
44時間
28日 160.0時間 176.0時間
29日 165.7時間 182.2時間
30日 171.4時間 188.5時間
31日 177.1時間 194.8時間

出典:厚生労働省「リーフレット 1か月単位の変形労働時間制

なお、1ヶ月単位の変形労働時間制では以下のケースが時間外労働となり、該当する時間分について割増賃金の支払いが求められます。

  • 1日について、所定労働時間が8時間を超える場合はその時間、それ以外は8時間を超えた時間
  • 1週間について、所定労働時間が40時間を越える場合はその時間、それ以外は40時間を超えた時間
  • 1または2における時間外労働時間を除き、変形期間内において法定労働時間の総枠を超えて労働した時間

1年単位の変形労働時間制

どのような制度?

1年単位の変形労働時間制は、1ヶ月超・1年以内の期間において、1週間あたりの平均労働時間が40時間以下の範囲内に収まれば、特定の日に1日8時間、もしくは特定の週に1週間40時間を超えた労働をさせることができる制度です。

どんな仕事で導入されている?

夜勤などを含み、働く時間が変則的な職種、夏季・冬季などの特定の時期、あるいは特定の月に業務が忙しくなる職種に有効でしょう。具体的には、24時間体制で運営される医療や介護の現場など、変則的な交代制での勤務が求められる職種、入社時期や昇給査定等で繁忙期のある人事関連の職種、決算期などに業務が忙しくなりがちな財務や経理関連の職種などで導入されます。

労働日数の上限は?

労働日数は対象期間が3ヶ月以内の場合を除き、年間280日が限度です。対象期間が1年未満の場合は、下記の計算式で上限日数を算出することができます。

[計算式]上限日数=(280日×対象期間中の暦日数)÷年間日数(通常365日)

例:対象期間が令和5年4月1日から10月31日までの7ヶ月(総暦日数214日)の場合
(280日×214日)÷365日=164.16≒164日

また、連続して労働させられる日数は最長6日となり、これを原則として休日を設けなくてはいけません。ただし、特定期間を設けることで、これを最長12日とすることが可能です。

労働時間の上限は?

1年単位の変形労働時間では、原則として1日10時間・1週52時間が労働時間の上限となっています。年間で換算した場合の総労働時間は以下の通りです。

暦日数 法定労働時間の総枠
365日 2085.7時間
366日 2091.4時間

出典:厚生労働省「週40時間労働制の実現 1ヵ月又は1年単位の変形労働時間制

また、以下のケースでは割増賃金の支払いが必要です。

  • 労使協定で定めた1日あたりの労働時間が8時間を超えればその時間、それ以外では8時間を超えて労働した時間
  • 労使協定で定めた1週あたりの労働時間が40時間を超えればその時間、それ以外では40時間を超えて労働した時間
  • 1または2における時間外労働時間を除き、変形期間内において法定労働時間の総枠を超えて労働した時間

1週間単位の非定型的変形労働時間制

どのような制度?

1週間単位の非定型的変形労働時間制は、労働者数が30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店だけに適応できる制度です。労使協定によって、1週間単位で毎日の労働時間が定められます。

労働時間の上限は?

1週間あたりの労働時間は40時間以下とし、これを超えた労働時間には割増賃金の支払いが必要です。この場合、1日あたり10時間まで労働が可能となり、週1日あるいは4週に4日の休日を設けます。

フレックスタイム制

どのような制度?

フレックスタイム制とは、あらかじめ定めた総労働時間の範囲内において、労働の開始・終了時刻や一日の労働時間を労働者自身が決めることができる制度です。

特定の時間帯の中であれば出社・退社時間を決められるフレキシブルタイムと、必ず勤務しなければいけない時間帯(コアタイム)に分かれておりますが、これらは必ずしも設定しなければならないわけではありません。

労働時間の上限は?

原則として1週間の労働時間は40時間が上限です。休日は自由に設定できるというわけではなく、週1日あるいは4週に4日以上設けなくてはいけません。

時間外労働の取り扱いは?

フレックスタイム制では時間外労働の取り扱いに注意が必要です。フレックスタイム制では、先に述べた通り労働者が労働時間を決められます。そのため、法定労働時間を超えた分が時間外労働になるわけではありません。また、労働時間が1日の標準労働時間を下回っても、欠勤にはならないのです。

フレックスタイム制で時間外労働となるのは、清算期間(労働者が労働すべき時間を定める期間)内において法定労働時間の総枠を超えた分の時間となります。

たとえば、「清算期間が1ヶ月・清算期間における総労働時間160時間・標準となる1日の労働時間が8時間」とした場合、清算期間中の実労働時間が166時間だった従業員は、時間外労働時間は6時間となります。

変形労働時間制のメリット・デメリット

変形労働時間制には、メリットとデメリットの両面があります。前述した種類別の特徴と合わせ、十分に理解したうえで導入を検討してください。

労働者側にとってのメリット・デメリット

<メリット>

  • 閑散期は短い時間で勤務できるため、この時期を休息やプライベートに充てられる
  • メリハリのある働き方で、仕事とプライベートとを両立しやすい

<デメリット>

  • 残業(時間外労働)が発生しにくいため、繁忙期に長時間勤務をした場合でも収入の増加が見込めない可能性がある

事業者側にとってのメリット・デメリット

<メリット>

  • 変形労働時間制で定めた範囲であれば、1日の労働時間が8時間を越えても残業代は発生しない
  • 繁忙期の所定労働時間を長く設定することで残業代を削減できる

<デメリット>

変形労働時間制は日や週によって所定労働時間が異なるため、労働者の勤怠管理が複雑化し、管理作業も煩雑になる

変形労働時間制の悪用と注意点

以下は、変形労働時間制が違法な行為として無効となり、悪用とみなされるケースの代表例です。事業者側は悪用につながらないように注意し、労働者側は被害を受けないために注意しましょう。

1ヶ月もしくは1年の所定労働時間が法定時間を超えている

会社で定められている所定労働時間が法定労働時間を超えている場合、その超過分は残業とみなされます。定めている所定労働時間が法定労働時間を超えていないか、超えている場合は労働者へ残業代が支払われる運用になっているか確認しましょう。

所定労働時間を超えて働いた日の残業代が支払われていない

会社が決めた所定労働時間を超えて勤務した場合は、その超過分が残業扱いになります。そのため、たとえば1日の所定労働時間が7時間と定められている日に8時間働いたのであれば1時間分は残業代として支払われます。

また、所定労働時間は変動できません。所定労働時間が7時間と定められた日に8時間働いたのちに翌日の所定労働時間を1時間減らしても、残業であることに変わりありません。

所定労働時間をあやふやにされている

変形労働時間制では日々の所定労働時間が変動するため、労働時間があやふやになってしまい、残業代の未払いなどのトラブルに発展する恐れがあります。

たとえば、1ヶ月の変形労働時間制を取り入れている会社で、所定労働時間が6時間の日と10時間の日が設けられていたとしましょう。所定労働時間が6時間と設定されている日に8時間働いた場合、一般的な所定労働時間の8時間を基準にして定時扱いにすることはできません。2時間分が残業代として計算されます。

休日出勤した場合に休日手当が支給されていない

法定休日における出勤には、変形労働時間制にかかわらず残業代(休日手当)が発生します。法定休日に出勤を命じる際、使用者は労使協定(36協定)の定めに従わなければなりません。

変形労働時間制の導入に必要な手続き(労使協定と就業規則)

労働者に時間外労働をさせるには、労使協定(36協定)の締結が必要です。この労使協定では、時間外労働を行う業務や、1日・1ヶ月・1年あたりの時間外労働の上限などを取り決めます。

ただし、時間外労働は原則として月45時間・年360時間が上限です。これを超えると、罰則の対象となるので注意しましょう。なお、労使協定のほかに、労働条件を記した就業規則というものもあります。

1ヶ月の変形労働時間制を導入する場合には、労使協定の締結または就業規則の定めが必要です。フレックスタイム制以外は、労使協定を所轄の労働基準監督署へ届け出なくてはいけません。

  1ヶ月単位の
変形労働時間制
1年単位の
変形労働時間制
1週間単位の
非定型的
変形労働時間制
フレックスタイム制
変形労働時間制についての労使協定の締結
※就業規則への定めでも可
労使協定の監督署への届出  

出典:厚生労働省 徳島労働局「変形労働時間制

1ヶ月単位の変形労働時間制の場合

1ヶ月単位の変形労働時間制の場合、就業規則または労使協定において以下の内容を定める必要があります。

  • 対象者の範囲
  • 対象期間
  • 対象期間の起算日
  • 労働日
  • 労働日ごとの労働時間
  • 労使協定の有効期間

1年単位の変形労働時間制の場合

1年単位の変形労働時間制の場合、労使協定において以下の内容を定める必要があります。

  • 対象となる労働者の範囲
  • 対象期間
  • 対象期間の起算日
  • 対象期間における労働日
  • 労働日における労働時間
  • 特定期間
  • 労使協定の有効期間

1週間単位の非定型的変形労働時間制の場合

1週間単位の非定型型変形労働時間制の場合、労使協定において以下の内容を定める必要があります。

  • 1週間の所定労働時間
  • 変形労働時間制による期間

フレックスタイム制の場合

フレックスタイム制の場合、労使協定において以下の内容を定める必要があります。

  • 対象となる労働者の範囲
  • 清算期間および起算日
  • 清算期間における総労働時間
  • 標準となる1日の労働時間
  • コアタイム(労働者が労働しなければならない時間帯を定める場合には、その時間帯の開始・終了時刻)
  • フレキシブルタイム(労働者が選択して労働できる時間帯に制限を設ける場合には、その時間帯の開始・終了時刻)

まとめ

変形労働時間制は、会社の繁忙期・閑散期などに合わせて労働時間を調整できるため、メリットの多い制度です。一方で気付かないうちに悪用してしまう、されてしまうケースも考えられます。制度の内容をしっかり理解し、十分に注意しましょう。

事業者にとっては残業代の削減といった大きなメリットはありますが、勤怠管理や残業時間の計算などが繁雑になりがちです。

介護業界においては、勤怠管理システムとも連携可能で、変形労働時間制などの勤務形態にも対応可能なシフト作成・管理サービス「CWS for Care」などのシステムの導入も、業務効率化のひとつの方法です。

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