さまざまな職種や勤務形態の労働者が働く介護事業者は、給与計算業務が複雑で、余分な労力や時間などがかかっているケースが大いにあります。さらに介護職員処遇改善加算による給与支給など、介護特有の事項もあり、給与計算担当者は法令をよく理解したうえで業務を遂行することが大事です。
この記事では注意すべき事項や業務全体の流れなど、給与計算にかかわる業務についてまとめました。作業負担をより削減したい担当者の方は、記事最後に紹介する給与計算ソフトについてもチェックしてみてください。
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介護事業所の給与計算で注意すべきこと3点
介護事業者における給与計算では、職種などによる賃金額の違いや、加算による給与アップなど注意すべき事項があります。
職種や保有資格による賃金額の違い
介護事業者では、以下のように職種によって基本給が変わる傾向にあります。
介護従事者等の平均給与額(月給・常勤)
※介護職員処遇改善支援補助金を取得している事業所のみ
介護職員 | 317,540円 |
---|---|
看護職員 | 373,750円 |
生活相談員・支援相談員 | 342,330円 |
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士または機能訓練指導員 | 354,770円 |
介護支援専門員 | 361,770円 |
事務職員 | 307,960円 |
調理員 | 260,090円 |
管理栄養士・栄養士 | 316,320円 |
出典:令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果|厚生労働省老健局老人保健課
また、介護福祉士や看護師の資格の有無などによって手当も変わってくるため、給与を計算する前にこれらの情報を整理する必要があります。
処遇改善に関わる加算による給与支給
介護職員処遇改善加算をはじめ、職員の給与に関わる以下の加算にも注意が必要です。
加算名 | 対象となる職員 | 支給金額の条件 |
---|---|---|
介護職員処遇改善加算 | 介護職員 | 以下に相当する額を支給 加算Ⅰ:月額3万7,000円相当 加算Ⅱ:月額2万7,000円相当 加算Ⅲ:月額1万5,000円相当 |
介護職員等特定処遇改善加算 | 介護福祉士の資格を持つ介護職員 ※原則、勤続年数10年以上の職員が望ましい |
1人以上は、月額平均8万円以上、または賃金改善後の見込額が年額440万円以上 他の介護職員と比較し、平均賃金改善額を高く設定すること など |
介護職員等ベースアップ等支援加算 | 介護職員 ※事業者の判断で他の職員を対象とすることも可 |
1人につき月額平均9,000円の賃金引上げに相当する額を支給 |
法改正による変更
社会保険料は毎年9月に変更されます。また、雇用保険法の改正で雇用保険料も変わる可能性があるため、給与計算を行う職員は最新の情報をよく確認しましょう。
さらに介護報酬改定で処遇改善に関わる加算にも、変更が生じる可能性があります。現在、令和6(2024)年度の介護報酬改定に向けて、処遇改善関係加算の一本化が議論されています。令和6年度中は準備期間として要件の適用の猶予により、従前の加算率が維持される可能性が高いですが、変更に向けて情報を正しく理解し、対応することが求められます。
給与計算業務の流れ
介護事業者の給与計算の流れは、一般的には以下のとおりです。
- 給与計算に関わる情報の整理
- 勤務実績の集計
- 支給額と控除額から手取り額を算出
- 給与明細を作成
ひとつずつ作業内容を詳しく解説します。
給与計算に関わる情報の整理
まず給与に影響を与える手当や保険料などの税率、昇給率、扶養の有無、交通費、割増賃金などについて確認しましょう。特に給与計算時に重要となる要素は以下4つです。
- 控除の対象
- 有給休暇における賃金
- 割増賃金率
- 休業手当
詳しくは以下をご確認ください。
控除の対象
控除の項目は「法定控除」と「法定外控除」に分けられます。法定控除は主に以下の項目が対象となります。
- 所得税
- 住民税
- 社会保険料
- 介護保険料
- 健康保険料
- 雇用保険料
法定外控除は企業ごとに独自で取り決めるため、項目や内容は各企業ごとに異なりますが、主に以下の様な項目が該当します。
- 労働組合費
- 社宅家賃
- 団体保険料
- 互助会会費
なお、法定外控除は、あらかじめ労使協定にて定めることで控除が認められます。
労使協定締結時には「賃金控除に関する協定書」を作成し、保管しておくとよいでしょう。「賃金控除に関する協定書」は、企業側に届け出の義務がありません。しかし労使間の締結をせずに法定控除以外の控除を行った場合、監査などで行政指導の対象になります。
有給休暇における賃金
従業員が年次有給休暇を取得した日は、給与の支払い額が変わるため、注意が必要です。有給休暇の支払い方法は、以下の3つのうちいずれかを選択します。
- 通常の賃金
- 直近3ヶ月の平均賃金
- 健康保険法における標準報酬月額の1/30に相当する金額
「月給÷当該月の所定労働日数」で割り出すことができる、通常の賃金で支払う方法が多く採用されています。
また、企業側はどの支払い方法を採用したかをあらかじめ就業規則に記載し、従業員の誰もが確認できる状態にしなければなりません。
割増賃金率
残業や夜勤などで、割増賃金率が以下のように変わります。
1 | 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた分 ※月あたりの時間外労働が45時間以下 |
25% |
---|---|---|
2 | 時間外労働が月45時間を超えた分 ※月あたりの時間外労働が60時間以下 |
35% |
3 | 月あたりの時間外労働が60時間を超えた分 | 50% |
4 | 3の時間外労働のうち代替休暇を取得した時間 | 35% |
5 | 1年間の時間外労働が360時間を超えた分 | 40% |
6 | 休日労働 | 35% |
7 | 深夜労働(22時~翌5時まで) | 25% |
休業手当
企業側の都合で従業員を休業させた場合は、休業手当を支払わなければなりません。休業手当は、平均賃金の60%以上が原則です。休業させた従業員の直近3ヶ月の給与から平均賃金を算出して計算します。
勤務実績の集計
続いて、従業員ごとに勤務実績をまとめます。訪問介護などの場合は、移動時間や待機時間に注意して計算します。事業所と利用者宅の行き来や利用者宅間の移動も労働時間に含まれます。ただし、従業員の自宅と利用者宅の行き来は労働時間に含まれないため、気をつけましょう。
勤務実績の集計には、勤怠管理ソフトが便利です。勤怠管理ソフトは出退勤の打刻時間をリアルタイムで集計できます。
支給額と控除額から手取り額を算出
残業や夜勤、休日出勤などに関する手当、基本給などから支給額を計算します。さらに支給額から、健康保険料や厚生年金保険料などの控除額を引いて、手取り額(差引支給額)を算出します。計算式は以下のとおりです。
支給額ー控除額=手取り額(差引支給額)
給与明細を作成
所得税法により、企業が労働者に給与を支払う際には、必ず支払明細書を交付する義務があります。
印刷して渡す以外に、データでの交付も可能です。データで支払明細書を交付する場合、これまでは労働者の承諾が必要でした。しかし令和5(2023)年度の税制改正によって、「期限までに回答がなければ承諾があったものとみなす」旨を事前に通知すれば、労働者の回答なしにデータで交付することが可能となりました。
給与の振り込みに関するルール
全労働者に対し、適切に給与が支払われるよう、労働基準法によって以下のルールが定められています。
通貨払いの原則 | 給与は商品などの現物ではなく、現金で支払わなければなりません。労働者の同意を得た場合は、手渡しではなく、銀行への振り込みで給与を支払うことができます。 |
---|---|
直接払いの原則 | 給与は必ず労働者本人に支払います。未成年の場合でも、親に支払うことは不可です。 |
全額払いの原則 | 社会保険料などのほか、あらかじめ労使協定で定めた控除以外に給与から天引きすることは禁止されています。 |
毎月払いの原則 | 給与は毎月1回以上の頻度で、定期的に支払わなければなりません。支払い日の変動は禁止されています。 |
給与計算ソフトを導入するメリットと選び方
介護事業所における給与計算は非常に複雑なため、給与計算ソフトを活用するのもひとつの手です。ソフト活用には、以下のメリットがあります。
- 自動計算による業務の効率化
- 手作業での計算ミスを防げる
選び方のポイントのひとつとして、新しい税率やルールなどに対応できるソフトがおすすめです。クラウド型の給与計算システムなら、税率などが自動的にアップデートされるため、利便性が高まります。以下のおすすめソフトも参考にしてください。
マネーフォワード クラウド 給与
マネーフォワード クラウド 給与は、他社サービスのさまざまな勤怠管理システムなどと連携して使える給与計算ソフトです。毎月の勤怠データを転記する必要がなく、自動で計算してくれるため、給与計算業務の効率化が目指せます。さらに銀行との連携機能もあり、振込業務の負担も軽減できます。
給与奉行クラウド
給与奉行クラウドは、企業ごとの複雑な給与形態や手当に合わせてカスタマイズできる柔軟性の高さが魅力です。さらに無償で「専門家ライセンス」が1つ分付属されており、顧問の社会保険労務士など社外の専門家と連携することで、労務トラブルに気づきやすくなるなど、企業の働き方改革を推進できます。
freee人事労務
freee人事労務は給与計算だけでなく、勤怠管理や従業員管理、入退社手続きまで労務にまつわる業務を一元化できるソフトです。賃金台帳や所得税徴収高計算書など各種書類の自動作成・更新もできるため、給与計算にかかわる周辺業務の効率化にも役立ちます。
効率化を目指すなら給与計算ソフトの導入を
介護事業者における給与計算は、職種や資格の有無、処遇改善加算などによって給与が変動するため、非常に複雑です。業務の効率化を目指すには、給与計算業務の流れをよく理解し、無駄な作業を減らすなどの工夫を講じましょう。
正確に計算し、かつ業務の負担を減らすには給与計算ソフトの導入も役に立ちます。税率などが自動で更新されるクラウド型の給与計算システムなら、法令順守をしながらミスなく給与を計算できるため、ぜひ導入を検討してみてください。
また、業務効率化におすすめなソフトも以下の記事でご紹介しています。