介護職は看取り介護が不安?看取り正しく理解して不安を解消しよう

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介護職は看取り介護が不安?看取り正しく理解して不安を解消しよう

利用者さんの安らかな最期をサポートする看取り介護。平成28年厚生労働白書では、1950年代は自宅で亡くなる方が約8割、2000年代は病院で亡くなる方が約8割でしたが「看取り介護加算」が創設された2006年以降は、特養など介護施設で亡くなる方が年々増えてきていることがわかります。

施設での看取りが重視されているなか、看取り介護をサポートする介護職員の存在は欠かせません。その一方で、看取りにおいては予め学ぶ機会も少なく、不安感、疲労感、喪失感を感じている介護職員は少なくありません。

本記事では、『看取り』という重要な役割を担う介護職員の不安とプレッシャーを解消するため、看取りの定義やターミナルケアとの違い、看取り介護の具体的な内容などについてご説明します。

看取り介護とは?

看取りとは、高齢者が延命治療などをして無理に寿命を延ばそうとせず、自然と亡くなっていく過程を見守ることです。具体的には、以下のように定義されています。

「近い将来、死が避けられないとされた人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減するとともに、人生の最期まで尊厳ある生活を支援すること」

出典:全国老人福祉施設協議会「看取り介護実践フォーラム」(平成25年度)

最近は「老衰」という言葉をあまり聞かなくなりましたが、本来、私たちの身体は寿命が近づいてくると「死」に向かい準備を始めます

細胞は分裂を停止し、しだいに細胞の数が減少していきます。すると少しずつ運動機能が衰え、小腸の栄養吸収能力や筋肉量などが低下し、食欲が落ちて体重も減っていき、「死」を迎えます。それが本来の人間の自然な姿です。

つまり看取り介護とは、寿命に近くなった方を無理に延命するのではなく、身体的苦痛や精神的負担を少しでも緩和・軽減することで穏やかな最期を迎えられるよう見守り、尊厳を持った人生の終わり方ができるよう支援することです。

看取り介護とターミナルケアの違い

ターミナルケアという言葉はよく耳にしますが、看取り介護とはどのような違いがあるのでしょうか。

看取りは介護の現場で、ターミナルケアは医療の現場で使われる言葉です。そこには残りの限られた命(余命)に対して「残された時間をどのように過ごしてもらうか」という介護目線で対応するか、「どのような治療をすべきか」という医療目線で対応するか、という違いがあります。
看取り介護であれば、自宅や施設などで静かに終末期を過ごすためのケアとして、食事や排泄などの介助・介護をします。一方のターミナルケアで行うのは、投薬などにより痛みなどを取り除く身体的ケア、不安や恐怖などを取り除く精神的ケア、治療費などの費用負担を軽減する社会的ケアで、「終末期医療」「終末期看護」とも呼ばれています。

看取り・ターミナルケアと似た言葉としてよく使われるのが緩和ケアです。看取り介護とターミナルケアに共通するのは延命治療をしない点ですが、緩和ケアはあくまでも病気による痛みや苦痛を緩和するのが目的なので、延命治療などの治療も並行して行うこともあります。

看取り介護の流れ

施設や事業所で看取り介護を実施する場合、以下のような5段階の流れがあります。

入所・適応期

老人ホームや特別養護老人ホームなどの高齢者施設に入所し、職員やほかの利用者さん、施設などの環境や生活に慣れてもらう段階。入所されるご本人やご家族の希望や要望を取り入れつつ、終末期の対応についての確認をします。

安定期

施設での生活にも慣れ、意識の変化や終末期の希望・要望に変更がないかを把握・確認する段階。終末期に向け、自分らしい生活が送れるよう準備をしていきます。

不安定・低下期

食事の量や体重が減り身体が衰弱し始める不安定段階と、衰弱が進行する段階。入所者ご本人とそのご家族に、病気の現状や今後の経過、予想される状態、施設で対応可能な医療の提供について説明し、具体的な計画を立てていきます。

看取り期

手を尽くしても回復が望めない、亡くなられる間近の段階。施設で対応できる範囲や内容について説明し、看取り介護同意書・計画書の同意を取って、亡くなった際の準備をしておきます。ご本人が会いたい人、会わせておきたい人には会っていただくようにし、最期の瞬間にはできるだけご家族に立ち会っていただけるよう手配します。  

看取り後

ご家族だけで過ごせる最期のひとときです。ご遺族のお気持ちや事情に配慮しながら、医師や葬儀会社へ連絡・手配をし、死後の処置や死亡手続きなどを行っていきます。

看取り介護における介護職員の主な役割

在宅ではなく、看取り介護を行う施設の介護職員には、どのような役割があるのでしょうか。主な役割は以下の7つです。

  1. 食事、排泄介助、清潔保持の提供
  2. 身体的、精神的緩和ケアと安楽な体位の工夫
  3. コミュニケーション(十分な意思疎通を図る)
  4. 状態観察(適宜、容体の確認のための頻回な訪室)、経過記録の記載
  5. 随時のご家族への説明と不安への対応
  6. カンファレンスへの参加
  7. 死後の処置(エンゼルケア)

あくまでも利用者さんが、安らかな最期を迎えられるよう見守ることが介護職員の役割です。

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看取り介護の実施内容

では、看取り介護の具体的な内容を見ていきましょう。

栄養と水分

利用者さんが望むように食べたいもの、飲みたいものを提供するのが看取り介護のサービスです。少しでも長生きしてほしいからと無理に食べさせるのではなく、ご本人の意向をきちんと把握して介護にあたることが大切です。

清潔

入浴を楽しみにされている利用者さんには、負担をかけない範囲で入浴できるよう援助します。入浴が難しい場合でも可能であれば手浴や足浴をし、頭髪や口腔ケア、朝晩の洗顔や寝具の交換など、最期まで気持ち良く過ごせるように清潔を保ちます。

苦痛の緩和(身体面・精神面)

終末期は、発熱や痛み、全身のだるさや下痢、嘔吐などの身体的な苦痛と、死ぬことへの恐怖という精神的苦痛に襲われます。楽な体位を工夫したり、足先を温めて血液循環を良くしたり、スキンシップや声がけを行ったりと、少しでも苦痛が緩和するようサポートします。

ご家族の支援

ご家族の精神的なサポートには、こまめな連絡や相談・説明が大切です。ご家族が付き添いを希望する場合は、寝具の用意や利用する部屋の説明をするなど、ご家族の希望や意向をかなえるのも看取りスタッフの仕事です。

死亡時の援助

危篤時や死後の変化に応じた適切なケアを行います。およそ24時間以内に死が予測される危篤の兆候が現れたら、医師やご家族に連絡をとります。危篤や臨終の際、ご本人へ言葉がけをしたり手を握ったりすることは、ご本人だけでなくご家族の癒しにもなりますのでアドバイスしましょう。

看取り介護の不安を軽減させるには

ここまで看取り介護についてお伝えしてきましたが、これから看取り介護を始めるという方にとっては不安も多いのではないでしょうか。また、すでに看取り介護を経験している場合でも、不安や疑問もあるはずです。最後に介護職員の不安を軽減するために必要な4点についてお伝えします。

通常の介護と異なる視点

看取り介護では、通常の介護ではしないようなことを行う場合があります。たとえば、通常の介護では無理なバイタルでも入浴介助をしたり、嚥下力が低下した利用者さんに、好きな食べものを少量提供したりといったことです。

ときには「こんなことして大丈夫?」と思うようなこともありますが、看取り介護で大切なのは、安全よりもご本人やご家族の満足度です。

終末期を迎える・迎えたご本人の状態変化に、改善や回復という視点ではなく、寄り添い、苦痛を取り除くという視点でケアするのが看取り介護です。その視点の違いを知り、看取り介護に必要な視点を習得することで不安を軽減することができます。

チームでの支え合い

とくに夜勤のときなど職員の人数が少ないと、「何かあったらどうしよう」と不安になるのは当然です。

そのためにも緊急時のフローやオンコールの目安などを具体的にしたり、オンコール当番の看護師は「わからないことがあったらいつでも連絡してね」などの声がけをしたりしましょう。介護職員の孤立を防ぐためにも、看護職やそのほかの施設職員も含め、チームで支え合うことが大切です。

死を受け入れる心の準備

たとえ期間は短くても、ともに生活した利用者さんの死により大きな虚無感に襲われる介護職員も少なくありません。とくに若い職員の場合、身近な人の死を経験していないことが多いため、死を受け入れる心の準備が必要です

看取り後の情報共有


利用者さんの死により、担当だった介護職員は自分を責めてしまいがちです。看取り後の振り返りのカンファレンスで納得できなかった点や不安、辛さ、良かった点などを共有することは、今後のケアにもつながりますが、何より対応した職員の心のケアになります。

まとめ

看取りに関わるスタッフは、看護職・介護職の誰もが不安を抱えています。その不安を解消するためには、看取りの知識を習得し経験を積むしかありません。医療面でのわからないことは看護管理者に聞くようにしたり、インターネットで情報を集め自分で研究したりすることも必要でしょう。

利用者さんが安らかな最期を迎えるためのお手伝いをできることはやりがいにつながりますが、介護する側の精神的負担が大きいのも事実です。看取り後の辛い気持ちは抱え込まず、介護職員もメンタルケアを受け、穏やかな気持ちでケアできるようにしましょう。

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