利用者へ安全に質の高いサービスを提供するため、介護施設・事業所には最低限の人員配置基準が厚生労働省により定められています。基準を満たせない施設・事業所は、行政指導の対象となるので注意しましょう。
この記事では特養や通所介護(デイサービス)などの人員配置基準をまとめるとともに、常勤換算の計算方法などを解説します。違反事例や、令和6年度介護報酬改定の内容、現在議論されている「4:1」への配置基準の緩和についても触れています。
目次
人員配置基準とは?違反するとどうなる
人員配置基準とは、介護施設・事業所を運営する際に、満たすべき職員の配置人数の基準です。安全かつ質の高いサービスを提供するために、厚生労働省により最低限必要な配置人数がサービス種別ごとに定められています。
人員配置基準を満たせない場合は違反とみなされ、行政指導の対象になる可能性があります。配置すべき管理者が勤務時間中に別の事業所で働いていたなどの事実が発覚し、指定取り消し処分を受けた事業所もあるため、十分な注意が必要です。そのほか、有資格者の配置が必要な場面で無資格者を配置していたなどの違反事例も集団指導においても報告されています。
介護施設・事業所別の人員配置基準
主な介護サービス種別と配置が必要な職種を表にまとめました。
管理者・施設長 | 医師 | 看護職員 | 介護職員 | 機能訓練指導員 | 理学療法士 作業療法士 言語聴覚士 |
栄養士又は管理栄養士 | 介護支援専門員 | 計画作成担当者 | 生活相談員・支援相談員 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
介護老人福祉施設 (特養) |
○ | ○ | ○ | ○ | ー | ○ | ○ | ー | ○ | |
短期入所生活介護 (ショートステイ) |
○ | ○ | ○ | ○ | ー | ○ | ー | ー | ○ | |
通所介護 (デイサービス) |
○ | ー | ○ | ○ | ー | ー | ー | ー | ○ | |
訪問介護 | ○ | ー | ー | ○ | ー | ー | ー | ー | ー | ー |
有料老人ホーム ※特定施設入居者生活介護のみ |
○ | ー | ○ | ○ | ー | ー | ー | ○ | ○ | |
サービス付き高齢者向け住宅 | 見守りサービスと生活相談サービスを提供するための人材を日中常駐させること | |||||||||
認知症対応型共同生活介護 (グループホーム) |
○ | ー | ー | ○ | ー | ー | ー | ー | ○ | ー |
出典:人員配置基準等(改定の方向性)|厚生労働省、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム) の報酬・基準について(検討の方向性)|厚生労働省、特定施設入居者生活介護|厚生労働省
以下で、介護サービス種別ごとに詳しく解説します。
介護老人福祉施設(特養)
職種 | 人員配置基準 |
---|---|
管理者 | 原則専従で常勤1人 |
医師 | 必要な人数 |
介護職員 | 利用者3人に対し常勤で1人以上 ※原則専従 |
看護職員 | 利用者3人に対し常勤で1人以上 ※原則専従 |
生活相談員 | 利用者100人に対し常勤で1人以上 ※原則専従 |
機能訓練指員 | 1人以上 ※兼務可 |
介護支援専門員 | 常勤で1人以上 ※原則専従 |
栄養士 | 1人以上 ※定員数40人未満の事業所は配置しなくても可 |
ユニットリーダー | ユニットごとに常勤で1人以上 |
出典:介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム) の報酬・基準について(検討の方向性)|厚生労働省
短期入所生活介護(ショートステイ)
職種 | 人員配置基準 |
---|---|
管理者 | 原則専従で常勤1人 |
医師 | 週2回程度勤務する医師を1人以上 |
看護職員 | 利用者3人に対し介護職員または看護職員が1人以上 ※兼務可 ※定員数20人以上の事業所は介護職員・看護職員のいずれか1人が常勤 ※病院や訪問看護ステーションとの連携で要件を満たすことも可能 |
介護職員 | 上記に加え、以下を満たすこと 【従来型】 夜間・深夜の基準 利用者数25人:1人以上 26~60人:2人以上 61~80人:3人以上 81~100人:4人以上 ※利用者数が100人を超える場合は、25人ごとに1人ずつ追加で配置 【ユニット型】 日中:ユニットごとに常時1人以上 夜間・深夜:2ユニットごとに1人以上 |
生活相談員 | 利用者100人に対し1人以上 ※最低1人は常勤 |
機能訓練指員 | 1人以上 ※兼務可 |
栄養士 | 1人以上 ※定員数40人未満の事業所で配置しなくても可 |
ユニットリーダー | ユニットごとに常勤で1人以上 ※ユニット型のみ |
調理員など | 必要な人数 ※調理業務は外部への委託が可能 |
通所介護(デイサービス)
職種 | 人員配置基準 |
---|---|
管理者 | 原則専従で常勤1人 |
介護職員 | 利用者数15人で1人以上 15人以上は以下の計算式で必要数を計算 ((利用者数-15)×0.2)+1 ※原則専従 ※常時、単位ごとに1人以上配置 ※介護職員と生活相談員のうちいずれか1人以上は常勤 |
看護職員 | 単位ごとに1人以上 ※原則専従 ※病院や訪問看護ステーションとの連携で要件を満たすことも可能 |
機能訓練指員 | 1人以上 ※兼務可 |
詳しくは以下の記事も参考にしてください。
訪問介護
職種 | 人員配置基準 |
---|---|
管理者 | 原則専従で常勤1人 |
訪問介護員 | 常勤換算で2.5人以上 |
サービス提供責任者 | 利用者40人に対し、訪問介護員などの職員のなかから常勤専従で1人以上 以下を満たす事業所は利用者50人に対し1人・サービス提供責任者(以下、サ責)を常勤で3人以上配置 ・サ責の業務に主に従事する職員を1人以上配置 ・効率的にサ責の業務が行われていること |
出典:訪問介護|厚生労働省
有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅
有料老人ホームは、特定施設入居者生活介護の指定を受けた介護付有料老人ホームと、指定を受けない住宅型有料老人ホームに分けることができます。
また、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)のなかにも特定施設入居者生活介護の指定を受けている施設があり、ここでは介護サービスなどを提供することができます。それぞれ人員配置基準が異なるため、以下で確認してください。
有料老人ホーム | サービス付き高齢者向け住宅 | |
---|---|---|
介護付有料老人ホーム (特定施設入居者生活介護) |
住宅型有料老人ホーム | |
管理者:1人 生活相談員:要介護者など100人に対し1人以上 看護・介護職員:要支援者10人に対し1人以上 または要介護者3人に対し1人以上 機能訓練指導員:1人以上 計画作成担当者:介護支援専門員が1人以上 |
入居者数などに応じて管理者、生活相談員、栄養士、調理員を配置すること | 見守りサービスと生活相談サービスを提供するため、以下の人材を日中常駐させること ・社会福祉法人、医療法人、指定居宅サービス事業所等の職員 ・医師 ・看護師 ・介護福祉士 ・社会福祉士 ・介護支援専門員 ・ヘルパー2級以上の有資格者 |
詳しくは以下の記事もご参考ください。
認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
職種 | 人員配置基準 |
---|---|
管理者 | 原則専従で常勤1人 |
介護職員 | 日中:利用者3人に対し常勤で1人以上 夜間:ユニットごとに1人 |
計画作成担当者 | ユニットごとに1人 ※最低1人は介護支援専門員 ※ユニット間の兼務不可 |
代表者 | 1人 |
出典:認知症対応型共同生活介護 (認知症グループホーム)|厚生労働省
詳しくは以下の記事でご確認ください。
人員配置基準の計算方法
人員配置基準の計算には常勤換算法を用います。常勤換算とは、常勤で働く人数を割り出す計算方法です。常勤職員を「1」と数えて、非常勤職員を以下の計算式に当てはめて算出します。
常勤職員+非常勤職員の勤務時間数合計÷常勤の職員が勤務すべき時間数
たとえば常勤職員(月160時間勤務)が2人、月90時間勤務の非常勤職員1人、月120時間勤務の非常勤職員1人の場合、計算式は以下のとおりです。
2+(90+120)÷160=3.13125
常勤換算で3人以上の配置が必要な場合は、上記の職員数で満たしていることになります。
人員配置基準の注意点
人員配置基準を順守するうえで、押さえておきたい注意点について以下で詳しく解説します。
令和6年度介護報酬改定の内容
人員配置基準に関して、令和6年度介護報酬改定で押さえておきたい点は以下の5点です。詳しく知りたい方は厚生労働省の資料ページをご確認ください。
改定内容 | 厚生労働省の資料ページ数 | |
---|---|---|
管理者の兼務 | 利用者への介護サービスの質に影響がなく、職員や業務の管理が滞りなくできる場合は、同一敷地内でなくても他の事業所などと兼務が可能。 | P120 |
両立支援への配慮 | 育児や介護、仕事との両立を図る観点から、短時間勤務制度を利用する職員は週30時間以上の勤務で常勤扱いにできる。 ※常勤換算法でも「1」と数えることが可能。 |
P118 |
テクノロジー導入時/夜間時の緩和 | 【特定施設入居者生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護】 テクノロジーを複数活用し、生産性向上の取り組みを行う特定施設は、看護・介護職員の配置人数が0.9人に緩和される。 |
P114 |
【短期入所療養介護、介護老人保健施設】 見守り機器などのテクノロジーを導入した際、夜間の配置人数が1.6人に緩和される。 |
P116 | |
外国人介護職員の基準緩和 | 就労6ヶ月未満の技能実習生、EPA介護福祉士候補者は以下の基準を満たせば、日本語能力試験N2以上に合格していない場合でも人員配置基準に含めることができる。 ・経験のある職員と組ませること ・安全対策の体制を整えていること |
P119 |
ローカルルール | 自治体ごとに差異が出ないよう、人員配置基準におけるローカルルールの在り方が明確化された。 厚生労働省の省令の範囲のなかで、地域の実情に応じた内容であることが求められる。 |
P121 |
そのほかに押さえておきたいルール
以下のルールも、人員配置基準において重要なため、よく理解しておきましょう。
有給休暇や、外部研修受講などの出張時の扱い | 常勤職員の場合は勤務時間として数えることが可能。 ただし非常勤職員の場合は勤務時間数に含めることができない。 |
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常勤兼務のルール | 同一敷地内の事業所で、同じ職種で兼務する場合は勤務時間の合算が可能。 たとえば隣接するA・Bの施設で管理者として働く場合はどちらの施設でも常勤兼務扱いできる。 |
人員配置基準が「4:1」へ?規制緩和に対する議論
現行、特定施設入居者生活介護の人員配置基準は「利用者:介護職員等=3:1」を基本に考えられていますが、政府の規制改革推進会議にてテクノロジー活用時に「4:1」に緩和する案が議論されています。
介護に携わる人々の間では「いくらテクノロジーを導入しても直接ケアは人の手でしか行えないため4:1は厳しい」「介護職員の負担が増え、離職につながるのでは」などの反対意見が多く見られます。
一方で「これから介護分野で人材不足が加速するなか、規制緩和は必要」という肯定意見もあります。あくまで規制緩和の案のひとつのため、必ず「4:1」にしなければならないわけではなく、テクノロジーを導入し「4:1」の人員配置を検討、導入することもできると考えるのが良いでしょう。
法令順守のため人員配置基準に気をつけよう
人員配置基準は安全に、かつ質の高いサービスを提供するために必要な人員配置の人数を定めた基準です。人員配置基準をギリギリ満たしているような人員配置を行うと、職員の急な体調不良や家庭の事情による休職・退職などで、思わぬ基準違反になるおそれがあります。日頃からリスクヘッジの観点からも採用活動なども進めながら、人員配置基準の遵守に努めてください。