介護事業所の指定取り消し・効力停止処分で職員はどうなる?軽減・回避方法は?

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介護事業所の指定取り消し・効力停止処分で職員はどうなる?軽減・回避方法は?

介護事業所が万が一指定取消・効力停止処分の対象となってしまった場合、職員や利用者はどうなるのかと不安に思っている経営者や職員の方もいると思います。指定取消・効力停止処分を受けてしまうと、介護事業所は介護保険法上の介護事業を営むことができなくなります。

この記事では、そもそも指定取消・効力停止処分とは何なのか、職員や利用者への影響、処分の対象となる事由、処分を受けるまでの流れ、そのようにならないための対策について解説します。


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指定取消・効力停止処分とは?

介護事業所は、都道府県知事からの指定により、介護保険法に則って介護事業を行っています。指定取消とは、この指定を取り消されてしまうことを指します。そして、指定効力停止(一部停止含む)とは、一定期間において指定の効力を停止され、介護保険法に則ったサービスを提供できなくなるものです。これらは、いずれも介護事業所に対する行政処分となります。

厚生労働省の調査によると、令和3年度には指定取消が56件、指定効力停止が49件(一部停止32件+全部停止17件)でした。

それぞれ平成26年度以降で最多だったのは、指定取消は平成29年度の169件、指定効力停止は平成26年度の118件(一部停止83件+全部停止35件)でした。そのほかの年度でも往々にして150件を超えており、多くの介護事業所が行政処分の対象となっていることがわかるでしょう。

指定取消・効力の停止処分のあった介護保険施設・事業所数など数内訳の推移(平成26年度~令和3年度、年度別)

指定取消・効力の停止処分のあった介護保険施設・事業所数など数内訳の推移(平成26年度~令和3年度、年度別)
出典:厚生労働省 総務課介護保険指導室「全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料

処分を受けたら職員や利用者はどうなるの?

指定取消の場合

処分を受けた場合、5年間は新たに申請をすることができないため、指定を受けることもできません。つまり介護報酬を得ることが不可能になることから、介護事業の運営そのものが難しい状況になってしまいます。その結果、利用者は同事業所で介護サービスを受けることができなくなり、職員も退職・転職を余儀なくされる可能性があります。

指定効力が停止された場合

指定取消と同様に、指定停止期間中は介護報酬を請求できません。実質的に介護保険法においての介護サービスの提供ができなくなるため、事業運営そのものが困難になります。

利用者も同事業所では介護サービスが受けられず、新たにケアマネジャーなどを介して、他事業所のサービスへの移行を余儀なくされます。また、職員も介護保険法においての事業が運営できない場合は、基本的に勤務を続けることは難しくなります。

たとえ停止期間が終わったのちに事業が再開できたとしても、停止期間中に移行した利用者や退職した職員が戻ってくる保障はありません。

一部停止の場合

例えば処分が新規受入の停止のみ(既存の利用者について報酬の支払いは継続)であれば、停止期間において新規の利用者は受け入れができません。この場合、既存の利用者に対する介護サービスの提供・介護報酬の請求は行えるため、事業の継続は可能ですが、利用中止や終了などで利用者の減少が生じた場合、経営が苦しくなります。

また、行政処分を受けると事業者名などが行政のホームページにも公示されるため、ケアマネジャーや利用者およびご家族が不安になり、利用を終了するなど事業所の運営に影響が生じる可能性もあります。

処分の対象となる事由

指定取消、指定の効力停止にはさまざまな事由がありますが、主な事由としては以下の通りです。ここでは、一例として居宅サービス事業に関する根拠条文を挙げます。

処分事由 内容
人員基準違反 平成十一年厚生省令第三十七号「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」に規定された「人員に関する基準」を満たさず、介護事業所を運営していた場合。なお、基準は施設種別等により異なる。
運営基準違反 平成十一年厚生省令第三十七号「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」に規定された「運営に関する基準」を満たさなかった場合。なお、基準は施設種別等により異なる。
人格尊重義務違反 平成十一年厚生省令第三十七号「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」第一章第三条の「指定居宅サービスの事業の一般原則」に則り、介護サービスの提供において利用者の意思や人格を尊重しない行動を取った場合。
不正請求 介護保険法「七十七条一項六号」の通り、サービス利用者に対して不正な請求が行われた場合。
虚偽報告 介護保険法「第七十八条の十」に則り、書類提出や報告等において虚偽があった場合。
虚偽答弁 介護保険法「第七十七条一項八号」等に則り、出頭を求められた際の答弁の内容において虚偽があった場合。
虚偽申請 介護事業所において指定・更新を行う際、申請内容に虚偽があった場合。申告においては、介護保険法「第七十四条第二項」の規定に従わなくてはならない。
法令違反 介護保険法のほか、関連法令に違反が見られた場合。

出典:e-GOV法令検索「介護保険法

また、厚生労働省の調査によると、令和3年度の指定取消・効力の停止の主な事由としてもっとも多かったのは介護報酬の不正請求で52件でした。次いで法令違反が34件、人員基準違反が20件となっています。

令和3年度 処分事由別指定取消・効力の停止件数(複数回答)

令和3年度 処分事由別指定取消・効力の停止件数(複数回答)
厚生労働省 総務課介護保険指導室「全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料」「第7表 令和3年度介護サービスの種類別にみた処分事由別指定の効力の停止(一部・全部)件数」及び「第8表 令和3年度介護サービスの種類別にみた処分事由別指定取消件数」を元に、弊社にて作成

たとえば、「人員基準違反」が起こる背景について考えてみます。シフトは月の途中で勤務変更が起こることが多々あり、それに伴って変更後に人員配置の要件が満たないなどの現象が生じやすくなります。その際、人に依存したチェックでは、人員基準違反を生む可能性が高まります。

さらに、運営指導の際にも実態と異なる勤務形態一覧表を提出し、人員基準違反を見落とした状態で人員欠如による減算を行わずに加算を算定するなど、誤った請求を行った場合は虚偽報告となり、不正請求として処分の対象となってしまいます。

こうした人員基準チェックの属人化を解消し、事業所の指定取消・効力の停止などのリスクを回避するためには、自動チェック機能の備わったシステムやクラウド型サービスの活用がおすすめです。

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処分を受けるまでの流れ

監査による立ち入り検査や関係者に対する聴取などで事実認定の後、改善勧告が行われます。これに対して改善が見られなければ改善命令・開示の後、指定取消もしくは指定効力停止の行政処分に至るという流れです。

なお、行政処分に向けては聴聞あるいは弁明の機会が与えられますが、その際に改善が見られなければ、指定取消処分となる可能性が高いです。

処分を受けるまでの流れ

詳しい流れについては以下をご参照ください。

▼指定取消の場合の流れ
運営指導 事業所に事前通知のうえで運営指導を実施。各種書類の確認、運営・人員・設備基準の遵守について確認されます。
監査 運営指導で不正が発覚した場合は、行政職員が訪問して監査が行われます。
改善勧告 監査結果を受けて改善勧告が出されます。改善に至った場合、その証拠を提出します。
聴聞通知 行政から「聴聞通知書」が届きます。予定処分の内容(指定取消)、およびその原因、聴聞の日程について記載されています。
聴聞 指定日程および場所で聴聞が行われ、基本的には聴聞通知書に記載された内容が読み上げられます。
取消処分 処分通知が届き、指定取消処分が実行されます。

運営指導は、おおむね数年に一度の頻度で行われます。なお、内部通告や利用者からの苦情などを受けて、運営指導を経ずに、監査が実施されることもあります。

聴聞では処分原因の認定に至った資料などの閲覧、また意見陳述などが可能です。取り消し処分を受けた場合においても、これに不服がある場合には、処分の日から3ヶ月間は不服審査請求が、6ヶ月間は処分の取消訴訟ができます

▼指定効力停止の場合の流れ
運営指導 事業所に事前通知のうえで運営指導を実施。各種書類の角印、運営・人員・設備基準の遵守について確認されます。
監査 運営指導で不正が発覚した場合は、行政職員が訪問して監査が行われます。なお、内部通告等の情報をもとに運営指導を経ず実施されることもあります。
改善勧告 監査結果を受けて改善勧告が出されます。改善に至った場合、その証拠を提出します。
弁明通知書 介護保険法では弁明の機会の付与が定められており、これに基づいて弁明通知書が届きます。
弁明書提出 弁明通知書に記載された期間までに、弁明書を提出します。
効力停止処分 監査結果および弁明書の内容を受け、程度に応じて一部もしくは全部の効力停止処分が行われます。

監査までの流れは、基本的に指定取消の場合と同様です。なお、効力停止処分が一部なのか全部なのか、また一部でもその期間など処分内容はケースによって異なります。

処分を軽減・回避する方法はあるのか?

処分を軽減、あるいは回避するための方法を、以下3つのパターンに分けて解説します。

処分の対象にはなったが、まだ処分を受けていない場合

行政からの通知内容に事実と齟齬がある場合は、指定取消なら「聴聞」のとき、指定効力停止なら「弁明書提出」の際に十分な弁明を行いましょう。そのためには通知内容をよく読み、徹底した事実確認が重要です。

また、予定されている処分については、差し止めるための訴訟を提起することもできます。

すでに処分を受けた場合

処分を受けた後でも、行政不服審査法に基づいた行政不服審査請求によって争うことができます。ただし、請求期間は処分の日から3ヶ月以内と定められているため、注意してください。

また、処分の日から6ヶ月以内であれば、行政事件訴訟法に基づいた処分の取消訴訟の提起も可能です。この場合、同時に処分の執行停止の手続も行うことで、取消訴訟で争っている期間中であっても介護報酬を受け取って介護サービスの提供が継続できます。

未然に処分を回避したい場合

指定取消や指定効力停止の原因となる事由が発覚するきっかけは、主に以下の4つです。

  1. 運営指導(実地指導)
  2. 利用者からの通報
  3. 職員からの通報
  4. 周辺住民からの通報

どの場合においても、日頃から適正に運営していれば問題ありませんが、未然に処分を回避するためには、運営・人員・設備の指定基準を十分に理解するとともに利用者およびご家族と職員、地域住民との円滑なコミュニケーションが重要です。定期的に基準を守ることができているか自己点検し、遵守のうえで健全な事業所経営を行うようにしましょう。

また、ケアプランや介護計画、介護記録の内容に沿って、提供サービスの内容と請求内容が一致しているか確認するなど、正しく請求が行われているかを確認するために申請内容や各種書類を見直すことも重要です。

万が一、確認の段階で誤請求が見つかった場合には、すぐに行政へ過誤申し立てを行ってください。運営指導で改善勧告を受けた際には、迅速に改善するよう業務の見直しを徹底しましょう。

行政処分を受けないために各基準の遵守・現場のマネジメントを徹底しよう

介護事業所における行政処分(指定取消や指定効力停止)について、その処分内容や事由、流れなどを詳しく解説しました。行政処分を受けないためには、まず「人員基準」「運営基準」「設備基準」といった3つの基準を遵守することが重要です。また適切な帳票整備も含め、正しく法令遵守を理解し、事業所内で周知徹底を行い、定期的な見直しを行いましょう。

また、行政処分に至る事由には、故意による不正なども含まれます。それらを未然に防ぐために、現場のコンプライアンス意識を高めるためのマネジメントが必要です。以下の記事も参考に、健全な介護事業所の経営に取り組みましょう。

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