介護業界のコンプライアンス違反事例と、研修やチェックなど遵守のための対策を紹介

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介護業界のコンプライアンス違反事例と、研修やチェックなど遵守のための対策を紹介

介護施設や事業所を運営する際には、介護保険法や労働基準法、高齢者虐待防止法などのさまざまな法令を遵守しなければなりません。法令遵守の意識を高めるためには、これまでに起きたコンプライアンス違反事例を知っておくことも必要です。

この記事では介護報酬の不正請求や運営基準違反、長時間労働の強制など、介護現場で起こりうるコンプライアンス違反の事例について詳しく解説します。法定研修の実施方法や、自己点検チェックシートの内容についてもまとめていますので、ぜひ参考にしてください。

介護業界におけるコンプライアンス(法令遵守)とは

介護業界におけるコンプライアンス(法令遵守)とは、介護保険法や労働基準法、利用者の権利擁護など、さまざまな法律や条例、法令などを遵守して介護施設や事業所を運営することを指します。

コンプライアンスは、利用者に質の高いサービスを安心・安全に提供するため、そして職員が適切な労働環境で働くために必要です。さらに、コンプライアンス違反が発覚すると指定取消処分などのリスクがあることから、適切に施設・事業所を運営するためにも欠かせません。

介護業界における重要なコンプライアンス一例

介護保険法 必要な運営基準を満たし適切なケアを提供する
適正な財務管理および財務状況の報告を行う
労働基準法 適切な労働時間を設定する
給与などを期日通りに支払う
道路交通法 交通ルールを遵守し利用者の送迎を行う
事故が起きたら警察などへ連絡する
高齢者虐待防止法 いかなる場合も利用者に虐待を行わない
虐待行為はしかるべきところへ通報する
個人情報保護法 利用者の個人情報は利用目的の範囲内で使用する
施設・事業所のセキュリティ対策を講じる
障害者総合支援法 利用者に対し適切な体制で支援を行う
本人の意思を尊重しサービス利用計画を立てる

介護業界におけるコンプライアンス違反事例

全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料のデータによると、令和4年度における指定の取消や効力の一部停止などの行政処分件数は合計86件でした。38件の指定取消のうち、理由として多いのは不正請求、虚偽答弁、虚偽申請、人員基準違反などです。

続いて、介護保険法と労働基準法のコンプライアンス違反について事例を詳しく紹介します。

介護保険法に関するコンプライアンス違反の事例

①不正請求の事例

提供していないサービスの介護報酬を受領したり、減算を正しく算定していなかったりする違反を不正請求といいます。たとえば虚偽のサービス記録を作成し介護報酬を不正に請求した、看護職員が欠如していたのに人員基準欠如減算を算定せずに事実とは異なる請求を行っていたなどのケースがあります。

介護職員処遇改善加算を算定し、加算額を受領しているのにも関わらず、職員へ適切に支給していない場合も不正請求となります。

②運営基準違反

運営基準違反とは、介護施設・事業所の運営にあたって遵守すべき運営基準を満たしていないケースを指します。具体的には、提供したサービスの内容の記録を残していないなどの書類不備管理者が従業員の一元管理や指示命令を行っていないなど責務を果たしていない場合に運営基準違反となります。

そのほかの事例として、作成した訪問介護計画について利用者とその家族に説明・同意を得ないまま、サービスを提供していた訪問介護サービスが運営基準違反として行 b政指導を受けています。

③利用者への虐待

利用者に対して虐待行為があった、身体拘束を行っていたなどの場合、人格尊重義務違反となります。ある通所介護でトイレを施錠して使用できない状態にするなど複数の虐待行為が発覚し、指定取消処分となった事例があります。

また、介護現場での身体拘束は原則禁止とされています。事例のひとつとして、施設内で十分に検討や記録を行うことなくつなぎ服やミトンを着用させ、身体拘束を行っていた訪問介護事業所が人格尊重義務違反(身体的虐待)として行政処分を受けています。

労働基準法に関するコンプライアンス違反の事例

④サービス残業の慢性化

職員に残業代などの手当を支払わずに時間外労働や休日出勤を強いる行為は、労働基準法違反です。介護記録や片付けなどの業務をタイムカードを押してから行わせるなど、サービス残業が常態化し、労働基準法違反となる事例があります。

シフト交代時の引き継ぎや研修時間なども労働時間に含まれるため、残業代の支払い義務が発生することを理解しましょう。職員が時間外労働をした場合は、割増賃金率25%以上で残業代を計算し、支払わなければなりません。

⑤長時間労働の強要

労使協定を締結しないまま職員に時間外労働や休日出勤を命じることは労働基準法違反となります。労働時間の限度は1日8時間・週40時間です。これ以上の労働を課す場合は、36協定などの労使協定の締結が必要となります。

事例のひとつを紹介します。お泊りデイサービスで人材不足による長時間労働が慢性化し、時間外労働が月70時間を超える職員もいました。この事業所では36協定の締結を行っておらず賃金の未払いなども生じていたことから労働基準監督署から是正勧告が出されました。

コンプライアンス違反をした場合の対応

万が一コンプライアンス違反が起きた場合、以下の手順で再発防止に努めましょう

1 事実確認 まずは違反に関わった職員や被害にあった利用者などに話を聞き、事実関係を確認する。
長時間労働や利用者への虐待など被害者がいる場合は行政やケアマネジャーに報告し、速やかな対応を行う。
2 原因の分析 現場の体制不備や意識の低さなども要因となり得るので、当事者だけでなく施設や事業所全体の問題として捉え、コンプライアンス違反が起きた原因を分析する。
3 対策 原因に応じて対策を講じる。
体制不備であれば人員や現場のオペレーションの見直し、職員の意識の欠如を改善するにはコンプライアンス研修などの対策が考えられる。

コンプライアンス違反が介護施設・事業所に与える影響

コンプライアンス違反により施設や事業所が受けるダメージは以下が考えられます

  • 利用者やその家族、世間からの信用低下
  • 企業イメージの低下などで顧客獲得や採用に悪影響
  • 指定取消などの行政処分や罰則による経済的な損失
  • 職員の士気低下による業績不振、早期退職リスク
  • 訴訟や損害賠償のリスク
  • 上記による経営悪化や倒産リスクの増大

特に介護事業は、介護保険料などを財源とし収入を得るため、よりコンプライアンスを強く意識した体制が求められます

コンプライアンス研修とは

法令やルールなどを遵守する重要性について現場に知らせることが、コンプライアンス体制構築の第一歩です。マニュアルの作成や労使協定の周知、内部のチェック体制強化など、コンプライアンスを徹底する方法はさまざまあります。その方法のひとつであるコンプライアンス研修についてここでは詳しく解説します。

コンプライアンス研修の目的

コンプライアンス研修は職員一人ひとりがコンプライアンスを意識し、ルールを遵守するリスクマネジメントのために行います。コンプライアンス違反になり得るケースや、それに伴うリスクなどを具体的な事例とともに学ぶことが重要です。

コンプライアンス研修は、コンプライアンス違反が起きにくい企業風土を醸成し、かつ企業体質の健全化へと導く効果があります。最低でも年1回以上行い、法令遵守を周知徹底しましょう。

法令研修(運営基準で定められている)研修の内容一例

研修に盛り込むべき内容は、以下の法令研修を一例にして考えましょう。

  • 高齢者虐待防止
  • 身体拘束排除
  • プライバシー保護
  • ハラスメント行為(職場内ハラスメント・カスタマーハラスメント)
  • 倫理・法令遵守
  • 認知症、認知症ケア
  • 感染症及び食中毒の発生の予防及び蔓延の防止

年間研修計画を作成し、担当者を選定しましょう。経験や知識のある職員のほか、介護労働安定センターに相談し講師を招く、eラーニングを活用する方法などもあります。

研修は座学だけでなく、現場を想定したロールプレイングや複数人で考えながら議論するグループワークなどもおすすめです。

コンプライアンスチェックに役立つ自己点検シート

厚生労働省が公表している、介護サービスごとの自己点検シートもコンプライアンスのチェックに役立ちます。具体的には、以下のような項目があります。

  • 人員配置基準を満たしているか
  • 利用者数や設備などが基準を満たしているか
  • サービス提供にあたり情報共有の会議を定期的に行っているか
  • 緊急時における対応方法を周知しているか
  • 従業員の健康診断を定期的に実施しているか

上記を1年に1回以上確認し、常に法令遵守を意識した運営体制を構築しましょう。

そのほか、各都道府県や市区町村の自己点検票も確認し、活用しましょう。

コンプライアンス研修などで法例遵守を意識した介護施設・事業所構築に努めよう

コンプライアンス違反は信用の失墜や経営不振による倒産リスクなど、介護施設・事業所の運営に大きな影響を及ぼします。コンプライアンス違反をしないためには、現場全体で危機管理の意識を高めることが非常に重要です。そのための第一歩としてぜひコンプライアンス研修を習慣化しましょう。

コンプライアンス研修は法令遵守の意識を高め、現場のリスクマネジメントにつながります。厚生労働省などが公表している自己点検シートなども活用し、コンプライアンス体制の構築に努めてください。

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