コミュニケーションは、介護現場における全ての基本です。しかし、高齢者とのコミュニケーションに苦手意識を持ったりストレスを感じたりする介護士の方も多いのではないでしょうか。
特に、介護職について間もない新人の方の場合、利用者さんと上手く意思疎通が図れず苦労しているといった声も聞かれます。この記事では、高齢者とスムーズにコミュニケーションを取るためのコツや、実践で役立つコミュニケーション関連の資格をご紹介します。
目次
介護職におけるコミュニケーションの重要性
介護職におけるコミュニケーションとは、どういったものなのでしょう。まず、高齢者とのおしゃべりすることがコミュニケーションだとイメージする方も多いかもしれませんが、会話や言葉とそれ以外のやりとりを通して、「考えや感情」を「共有」することがコミュニケーションです。
高齢者は視覚や聴覚、言語能力の低下によって情報を伝達しにくくなったり、認知症によって意思疎通が困難になったりします。このような状況において相手の気持ちを察し、何を求めているのか、何を伝えたいのかを汲み取る能力が介護におけるコミュニケーションの重要なポイントです。
コミュニケーションが苦手と悩む介護士は意外と多い
利用者さんとのコミュニケーションに苦手意識を持つ介護職員は意外と多いものです。コミュニケーションロボットの導入など、介護者の役割を補う試みを行っている介護施設もありますが、複雑な状況や大切な意思決定場面においてはしっかりとしたコミュニケーションが求められるため、介護士はコミュニケーションスキルを磨く必要があります。
介護においてコミュニケーションが難しい場面とは
介護士がコミュニケーションについて難しさを感じるのはどんな状況でしょうか。まずは、具体的な状況ごとにしっかりイメージしていきましょう。
関係が浅く、話題がないとき
初対面でお互いに相手をよく知らない段階では、話題作りに困ることもあるでしょう。たくさんの利用者さんの中には、性格的に相性の良くない人がいても不思議ではありません。
話題作りに困って気まずい雰囲気に苦労した経験は、介護職ならば誰にでもあるのではないでしょうか。訪問系や通所系では、利用者さんの入れ替わりが比較的頻繁なのに加え、一週間に数回かつ一日のうち限られた時間だけの関わりなので、入所系と比べると関係性を深めていくのに時間がかかるといえます。
認知機能が低下している人との関わり
「反応が薄い」、「何度も同じことを聞いてくる」など、認知機能が低下している人とのコミュニケーションは難しいものです。「言葉を理解する能力(言語理解)」と「言葉を話す能力(言語表出)」が衰えていることが原因です。
興奮している、拒否的な人との関わり
認知症が進行している利用者さんは、感情のコントロールを失って興奮したり、焦りや葛藤から介護されるのを嫌がったりするものです。それ以上興奮しないよう、適切な距離をとって見守ることが原則ですが、そのままだと危険が伴うような場面では、難しい状況下でのコミュニケーションを求められることもあります。
コミュニケーションのコツ
利用者さんとのコミュニケーションの中でも、前述のように特に認知症の方とのコミュニケーションに難しさを感じる方も多いのではないでしょうか。
アルツハイマー型認知症や類似の認知症高齢者とコミュニケーションを行うための方法のひとつに、バリデーションというものがあります。ここではバリデーションの基本やテクニックを交えて、コミュニケーションのコツをご紹介します。
求められているコミュニケーションのタイプを知る
一概にコミュニケーションといっても、比較的元気な利用者さんが多いデイケアやデイサービス、住宅型有料老人ホームだと、介護士にはいわゆる楽しい世間話が求められることが多いでしょう。特養、老健、介護付有料老人ホームでは、ほのぼのとした家族のような会話や、認知症の方とのコミュニケーションが求められることが多いようです。
自分に求められているコミュニケーションがどちらのタイプなのか、その都度把握しておく必要があります。
非言語コミュニケーションをフルに使う
コミュニケーションにおいては、言語コミュニケーションよりも非言語コミュニケーションのほうが、相手に与える印象に影響し重要と言えます。「顔に書いてある」という言葉の例からもわかるように感情は表情に表れるものですし、海外で言葉が通じなくても、身振り手振りのジェスチャーでなんとか買い物ができたという人は多いのではないでしょうか。
話を聞くときに少し身を乗り出す、適切に笑顔を見せる、うなづくなど非言語コミュニケーションで好印象を与え、信頼関係を作ることが大切です。
質問の仕方を使い分ける
利用者さんの食事や着替えを行うときは、「はい」または「いいえ」で答えられるよう、「これにしますか」、「手伝ってもいいですか」といった「閉じた質問」を用いましょう。反対に、思い出や願いを自由に話してもらいたいときは、「どんなことが大変でしたか」、「何が嬉しいですか」といった5W1Hを問う「開かれた質問」をするなど使い分けるのが効果的です。
意識付け
何かをお願いしたいときや伝えたいとき、まずは名前を呼んで意識付けをすると反応が良くなります。 認知症が進行した利用者さんは視野が狭くなっているので、しっかり正面から視界に入り、20センチくらいの距離でアイコンタクトをとることも大切なスキルです。
傾聴
内容についてアドバイスやジャッジをせず、相手の話を奪わないのがポイント。「しっかり聞いてもらった」と満足してもらい、充実感を味わってもらうようポジティブに話を聞いていきましょう。ときには、沈黙すらもコミュニケーションと捉えます。
沈黙に耐えられずに口を出してしまいがちですが、高齢者のゆったりとした話のペースに合わせましょう。沈黙からは「話すのをためらっている」、「感情を噛みしめている」などの状況を読み取れることもあるはずです。
共感
ポイントは、介護士の価値観を押しつけず、基本的にはどんな内容でも相手の立場になって一旦受け止めることが大切です。「嫌なんですね」、「困っているんですね」と相手の感情をそのまま受け止めて共感すると相手の心に近づけるので、コミュニケーションを深める糸口ができます。
介護現場で役立つコミュニケーション関連の資格
介護職員向けの民間資格を取ることで、コミュニケーションを体系的に学びなおし、理論に基づいた実践ができます。
介護コミュニケーションアドバイザー資格
現場で自らのスキルアップをしたい人や、新人育成において適切なアドバイスや指導をしたいと考えている人に向いている資格です。
・目的
介護コミュニケーションに関する基礎知識と、それを実践できるだけの技術を有することにより、職業能力と社会的経済的地位が向上することを目的としています。
・受験資格
日本能力開発推進協会指定の認定教育機関等が行う教育訓練において、その全カリキュラムを修了した者が対象です。
・詳細
受験料は5,600円(税込)で在宅受験もできます。合否判定は得点率70%以上です。
・履修内容
「相手本位の言葉かけ」「敬語、トータルコミュニケーション」「傾聴、受容、共感、様々なコミュニケーション技法」「場面ごとの適切な声かけ」「応答」「コミュニケーション力向上のためのトレーニング法」
高齢者コミュニケーター
高齢者コミュニケーターとは高齢者の心身の状態を把握し、適切なコミュニケーションを取るための知識や技術を学んだ人のことです。資格試験や終了検定などはなく、講座を受講すれば修了証が交付されます。
・目的
より適切で実践的な高齢者とのコミュニケーション技術を磨くことです。
・詳細
ニチイが実施する「高齢者コミュニケーター講座」では、「日本人ならではの接し方」と「欧米式の明快なコミュニケーション技術」を融合した実践的コミュニケーションを学びます。
受験料は31,432円(税込み)です。通信教育により課題を提出して添削を受けることで修了証明書が発行されます。
・履修内容
「高齢者の身体特性」「高齢者の心理特性」「家族の心理」「コミュニケーションとは」「高齢者とのコミュニケーションの本質」「状態に応じた適切なコミュニケーション」など
介護のコミュニケーションにおいて大切なこと
何よりも大切なことは、介護を受ける側の高齢者の尊厳を大切にするということです。会話の中では相手を尊重し、寄り添うことが重要です。
はっきり大きな声で相手が聞き取りやすいように話したり、言葉だけに頼らず、表情や態度で表現したりすることで、より信頼関係を築きやすくなります。ただし、むやみに大きな声を出したり、視界の外から急に呼びかけたり、勢いよく近づいたりすると相手を驚かせ、時には不適切なケアとなってしまう場合があります。
状況に応じて臨機応変に対応しましょう。また、認知症の方に対し「分からないから」といって、いい加減な嘘でかわすなどのコミュニケーションは適切ではありません。
言葉や行動の奥にある真の訴えを理解するためにも、しっかり傾聴する力を身につけましょう。
介護現場のコミュニケーションはコツをつかむことでうまくなる
高齢者とのコミュニケーションが苦手だと感じている方でも、前向きに学んでコツさえつかむことができれば、苦手意識をきっと克服できるはず。コミュニケーションスキルを磨くことは利用者さんのQOL向上に繋がるだけでなく、スムーズなケアや不要なトラブルの回避にもつながります。
利用者さんのためにも、自分自身のためにも、五感をフルに使って手ごたえを確かめながらコミュニケーションの技術を磨いていきましょう。