【連載4】看取り介護を考える:苦しみは大きく2つに分ける

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人生の最終段階において、周囲の人がしてあげられることは何か。苦しみをゼロにしてあげることはできませんが、何もしてあげられないということではありません。ただ、本人が抱える苦しみには大きく2種類あることを知っておくことが大切です。

めぐみ在宅クリニック院長で一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会理事、小澤竹俊先生にご解説いただきます。

人生の最終段階でできるケアとは

エンドオブライフ・ケアというと「人生の最終段階におけるケア」、つまり看取りにおける関わり方であり、この段階では何もしてあげることができないと考える人がいます。

確かに時間を過去に戻すことはできません。
すべての苦しみをゼロにすることもできません。
しかし、何もできないことはありません。

苦しみは希望と現実の開きと紹介しました。

この苦しみを大きく2つに分けます。
解決できる苦しみと、解決できない苦しみの2つです。

解決できる苦しみと、解決できない苦しみ

身体の痛みについては、痛みを和らげることで解決することができます。

希望しない場所で療養を強いられていた人が、希望の場所で療養できるようになったとすれば、これも苦しみが解決できたと言えるでしょう。

解決できる苦しみがある一方で、どれほど医学が発達しても、すべての苦しみをなくすことはできません。
家族に迷惑をかけてふがいないと感じる苦しみ、まだ元気でいたいのに日に日に弱くなっていくことへの苦しみは、残り続ける苦しみであり、簡単には解決できません。

なぜこのように、解決できる苦しみと、解決できない苦しみを分けるのか。
それは、私たちは苦しむ人の力になりたいと思うとき、解決できない苦しみでさえも、なんとか解決しようとする私たちに陥りやすくなるからです。

変えることのできないものを受け入れる

解決することができる苦しみはすみやかに解決する。
解決することができない苦しみに対しては、その存在を認めた上で、関わり方を改める。

そのためにはこの苦しみは解決できる苦しみなのか、解決できない苦しみなのかを見極める力が大切になります。

変えることのできるものを変える勇気と、変えることのできないものを受け入れる冷静さと、その違いを常に識別する知恵と 

ニーバーの祈りより

変えることのできないものについて、受け入れるだけの冷静さがどのようにして与えられるのかご紹介いたします。

解決できない苦しみを前に私たちができること

人の苦しみには解決できるものとできないものがあります。解決できない苦しみについてはその存在を認めた上で、関わり方を改めることが肝要です。そのためには、何を大切にすべきなのでしょうか。

どれだけ技術が発展しても解決できない苦しみとは

苦しみは「希望と現実の開き」と紹介しました。
苦しみには解決できる苦しみと解決できない苦しみがあります。

がんを代表とする身体の痛みであれば薬物で痛みを和らげたり、希望の場所で過ごせないことに苦しみを感じているのであれば、希望の場所で過ごせる配慮をするなどして対応することができます。

しかし、どれほど医学や科学が発達しても、人間には解決することができない苦しみがあります。

一人でトイレに移動できず、誰かのお世話にならないといけない。
家族に迷惑をかけて生きていたくないという想い。
一家の大黒柱として家族を養うことを誇りと感じていた人が、仕事ができなくなりかえって自分が負担をかけてしまう、ふがいない、情けない、という想い。
このような苦しみは、解決することができません。

残り続ける苦しみを前にしても、人は穏やかになれるのか

その苦しみを前に、私たちには何ができるのでしょう?

残り続ける苦しみを前に、ここでは発想を変え、このような問いを立ててみたいと思います。

人は苦しみを抱えながらも、穏やかになれるでしょうか?

人は、ただ苦しむのではありません。
苦しむ前には気づかなかった自らの支えに気づくとき、穏やかさを取り戻すことがあります。

ただ家族がそばにいるだけですごく穏やかな気持ちになれることに気づいたり、何気ない友人の一言がものすごく嬉しかったり、今まで気づかなかった庭に咲いている花に心が動いたり、今まで聴き逃していた音楽に涙を流します。

決して気が弱くなったのではありません。大切な自らの支えに気づいたのです。
すると、同じ苦しみを抱えていながらも、穏やかさを取り戻すことができます。

穏やかさを得るために大切なのは支えの存在

穏やかだと思える理由は人によって異なります。

その穏やかと思える理由を、私は支えとして、現場で大切にしてきました。
人は苦しみを抱えながらも、自らの支えが与えられた時、穏やかさを取り戻すことができます。
その可能性を、医療を専門としない多くの人にも伝えたいと考えています。

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