これから介護業界で働いてみたいと考えている方のなかには、「介護職ってきついの?」といったネガティブな印象を持つ方も多いのではないでしょうか?
どんな仕事でも、大変なこと、楽しいことの両面があります。介護職の場合でも、自分に合った働きやすい施設を見つけることができれば、やりがいや楽しさ、理想の働き方を手に入れることができます。
本記事では介護業界のホンネを交えて、介護職が「きつい」「大変」というイメージを持たれる理由と、「それでもやりがいと将来性のある魅力的な仕事」だといえる理由をお話しします。
目次
介護職の仕事内容とは
介護職の仕事内容は大きく分けて身体介護と生活援助があります。それぞれどのようなことを行うのか、どういった点がきつい・大変というイメージにつながるのか、具体的に確認していきましょう。
身体介護
身体介護には食事や排泄、入浴、移動・移乗などの介助があります。ADL(日常生活動作)で必要な動作に対して、直接的に身体に触れて介助を行います。
食事介助
自力で食べることや自分で食事の用意をすることが難しい方に対して、食事の準備、摂食の介助、食後の後片付けを行います。
利用者さん一人ひとりの身体機能、摂食・嚥下(えんげ)機能、認知機能は異なりますので、その方に合った姿勢のセッティング、道具(箸、スプーン、フォーク)の選択、安全に食事が行える食べ物の形態・食事ペース・介助方法で食事を支援します。できるだけ利用者さん本人の能力を活かして、楽しんで食事をしていただくことはもちろん、栄養面への配慮、体調の変化や嚥下の状態、摂取量の確認を行いながら介助します。
排泄介助
自力で排泄が難しい方に対して、その方の排泄機能や身体機能、認知機能にあった介助を行います。
具体的にはおむつ交換や陰部洗浄、トイレへの誘導、移乗、衣類(ズボン、パンツ、おむつなど)の上げ下げ、排泄後の処理などを行います。できるだけ利用者さん本人が行えるところは見守り、必要な介助を実施します。排泄のタイミングを図って、事前にトイレ誘導ができればスムーズな排泄が可能となるでしょう。
入浴介助
自分で入浴が難しい利用者さんに対して、更衣・洗体・洗髪・浴槽の出入りなどを介助します。
その日の体調面や身体機能、認知機能に配慮し、安全に入浴ができるようにサポートします。浴室は床が滑りやすいため、転倒の危険性が高まります。また、脱水症状や冬場のヒートショック、浴槽でおぼれてしまうといった事故が起こりやすい環境になっているので、十分な事前準備と介助中の注意が必要です。
安全面だけではなく、シャワーの勢い、洗体時の順番や洗う強さなど、利用者さんの希望に沿った介助やプライバシーにも配慮した介助が求められます。
移乗・移動介助
「寝返る」「起き上がる」「立ち上がる」「座る」「歩く」といった、日常的な基本の動作の介助を行います。利用者さんの移動能力、身体機能に配慮し、安全に移動できるように介助を行います。できるだけ利用者さんの持っている能力を活かす介助を行うことで、寝たきりを防ぐことにもつながります。
生活援助
生活援助では掃除・洗濯、買い物、調理など、身体介護以外の支援を行います。
生活援助が介護保険という社会保障費を利用して行えるのは、利用者さんの日常生活を成り立たせるために不可欠だからです。そのため原則としては、自分でできることは自分でやってもらい、健康面・安全面・衛生面などといった観点から必要なことのみをサポートします。
掃除・洗濯
自宅や施設で生活している利用者さんの居室の掃除や洗濯を行います。掃除は、利用者さんが過ごしやすい環境づくりや、移動時の転倒リスクを低くすることなども考えて行います。掃除の際にいつも決まった場所に置いてあるモノの置き場所を変更すると、利用者さんが混乱することもあるので注意が必要です。洗濯は、洗濯するだけではなく、干す、取り込む、畳む、収納もお手伝いします。
買い物
利用者さんが生活するために必要最低限のものを購入する際に、利用者さん宅の近くの店舗にて買い物代行、買い物援助を行います。
調理
利用者さんの好み、体調、栄養面、嚥下機能などを考慮して、食材や味付け、調理法などを工夫し、利用者さんが食べる食事の調理を行います。
施設によって異なる介護職の働き方
介護職は働く職場や事業者によって仕事内容も異なってきます。介護職が働く施設は、大きく分けて入所型、通所型、訪問型の3つです。それぞれの施設の特徴について紹介します。
入所型
特別養護老人ホーム
特別養護老人ホームは介護老人福祉施設のことで、特養とも呼ばれます。原則、要介護3以上の65歳以上の高齢者が入所する施設です。要介護3以上の身体的な介助を必要とする方や重度の認知症の高齢者が中心となるため、施設内の日常生活動作における介助量が多くなります。
有料老人ホーム
有料老人ホームは、施設の種類によって提供しているサービスが異なり、介護内容も大きく変わってきます。
- 介護付き有料老人ホーム
生活支援や身体介護などのサービスがついた施設です。
最も一般的で、多くの有料老人ホームがこの形態です。 - 住宅型有料老人ホーム
生活支援等のサービスが付いた高齢者向けの施設です。
利用者さんは介護が必要になれば、外部の介護サービス事業者と新たに契約して介護サービスを受けることができます。 - 健康型有料老人ホーム
家事サポートや食事等のサービスが中心の、利用者さんの自由度が高い高齢者向け施設です。
利用者さんは介護が必要になった場合は契約を解除し、退去しなければいけません。
介護付き有料老人ホームでは、入浴・排泄・食事介助などの身体介護を行いますが、住宅型や健康型では生活援助や見守りが中心となります。ホテルのような高級サービスを提供している施設やイベントやレクリエーションを中心とする施設、積極的なリハビリを提供している施設など、施設によってコンセプトや利用者さんの要介護度はさまざまです。特徴に応じて求められる仕事内容や求められる能力が異なります。
介護老人保健施設
介護老人保健施設は、在宅復帰に向けて医療やリハビリテーションを提供する施設のため、身体介護やリハビリ介助などが中心となります。基本的に利用者さんは3か月以内で退所されるため、利用者さんの入れ替わりがあります。
グループホーム
グループホームは認知症高齢者グループホームといい、認知症高齢者の食事・排泄・入浴介護や生活援助を行います。入所されているのは認知症の方なので、認知症の方への対応が必要となります。
サービス付き高齢者向け住宅
サービス付き高齢者向け住宅とは60歳以上の高齢者または、要介護・要支援認定を受けている60歳未満の方を対象とした生活相談等の福祉サービスを提供する施設です。施設によって入居している方の介護度や雰囲気も異なり、仕事内容も変わります。
介護度の低い方が趣味やイベントを楽しむ施設では安否確認や身のまわりの援助が中心となり、介護度の高い方や認知症の方が入居されている施設では、身体介護や日常的なケアが中心となります。
小規模多機能型居宅介護
小規模多機能型居宅介護とは、通所施設を中心として、必要なときに施設でのショートステイや居宅への訪問を提供するサービスです。身体介護や生活援助、リハビリ支援などの幅広い支援を提供します。
通所型
デイサービス
デイサービスには、要介護1以上の方のみを対象にしたところと、要支援1・2の方を対象とする介護予防型も含めたところの2つがあります。また、認知症専門のデイサービスもあります。施設によって利用者さんの特徴やサービス内容に特色があるため、仕事内容も異なります。比較的介護度の低い方がレクリエーションやイベントを中心に取り組む活発な雰囲気のデイサービスもあれば、認知症の方や介護度の高い方が多く、排泄・入浴・食事介助といった身体介護が中心となるところもあります。
ショートステイ
ショートステイとは、自宅で療養されている方が、介護者の用事などで一時的に介護を受けることのできない状態にあるときに、泊まりで受けることのできるサービスです。ショートステイは最長30日間までの利用と決められており、多くは数日~数週間の短期利用です。そのため、初めての方でも早期に特徴をつかんで、その方にあった介護サービスを提供できるようにしなくてはなりません。
通所リハビリテーション(デイケア)
デイケアはリハビリテーションを実施する施設のため、入浴や排泄、食事などの身体介護以外にリハビリテーションの介助や体操、レクリエーションなども行います。施設によってマシントレーニングや音楽療法など、実施しているリハビリテーションの特徴も異なります。
訪問型
居宅介護支援事業所、訪問介護事業所
利用者さん宅に訪問して身体介護および生活援助を提供します。それぞれの利用者さんの特徴や利用者さん宅の考え方・環境にあった身体介護、生活援助を行う必要があります。基本的に一人で訪問するため、一人で判断して行動しなければなりません。訪問介護の身体介護は介護職員初任者研修をとると行えるようになります。
介護職が「きつい・大変」と言われる3つの理由
体力が必要
介護職は身体介護の際に利用者さんを抱えたり、支えたりする機会が多い仕事です。夜勤のある職場もあり、体力が必要な仕事なため「きつい・大変」と思われがちです。
身体介護においては、自分の身体の使い方や姿勢に気をつけることで、身体にかかる負担は軽減することができます。力任せの介助ではなく、利用者さんの動きを引き出すことを意識すると、余計な力をかけることもありません。
一人で介助するのは難しいと判断したときは、スタッフに声をかけて二人で介助を行いましょう。利用者さんの安全を守るためにも、自分の身体を守るためにも無理をしない、リスクを冒さないことが大切です。
一度腰を痛めると、一旦よくなってもぶり返してしまうので、無理な姿勢や力任せに介助を行うのは避けましょう。身体に負担をかけない介助の仕方を習得し、自分の筋力が落ちてしまわないように、下肢・体幹のトレーニングを日頃から習慣にして「きつい・大変」と感じない体づくりをしておくこともおすすめです。
人手が不足している
人手不足の職場は、休憩時間が充分に取れない、希望日に休暇が取れない、夜勤に入る日数が多いなど、介護職一人当たりにかかる業務負担が大きく、このことが「きつい・大変」と思われる要因でもあります。
職場によって、職員の充足具合は異なり、人材の定着を目指して待遇改善に力を入れている施設も多くあるので、すべての職場が「きつい・大変」というわけではありません。
人間関係が複雑
少人数のチーム体制をとっている職場や、10代~60代までの幅広い年齢層で経歴もさまざまなスタッフが活躍する職場などがあり、それぞれの価値観の違いなどから、仕事を行う上での意見が合わないということも出てきます。意見が対立してスタッフ間の関係がぎくしゃくするなど、人間関係の複雑さが「きつい・大変」と思われる面でもあります。
ただし、働く職場によって人間関係は大きく異なります。スタッフ皆が同じ方向性に向かって仕事が進められる環境が整っている職場や、スタッフ間の協力体制がとれていて人間関係が良好な職場では人間関係が「きつい・大変」と感じることも少ないでしょう。
介護職のやりがい
介護業界の仕事は「きつい・大変」と感じる点もありますが、多くの介護職員は、直接的に人に関わり、生活に介入するからこそ得られるやりがいがあると感じています。
直接「ありがとう」の言葉をかけてもらえる
東京都高齢者福祉施設協議会525施設、302人の介護職のアンケート回答によると、「介護職をしていてよかったと思うことがある人」は全体の96.0%でほとんどの人が介護職をやっていてよかったと思っていることがわかります。
「介護職をやっていてよかった」と思う点は、「利用者などからの感謝や笑顔」が37.4%でもっとも多く、「ありがとう」の言葉をかけてもらうことという回答が多くみられました。
利用者さんの回復を間近で感じることができる
直接的に利用者さんの生活に介入している介護職は、利用者さんの生活の変化を間近で感じることができます。リハビリテーションや、日々の生活をサポートする中で、利用者さんのできることが増えていく、利用者さんが元気になっていく、笑顔が増えるなど、利用者さんの回復を感じることが、大きなやりがいにつながっています。
「高齢者との関わり合いから学ぶことが多い」
前述アンケートのうち、「介護職をしていてよかった点」の回答で2番目に多かったのは「自己の変化(成長)」です。
- 人の最期のケアに携わることで、生きる意味を考えることができる
- 人と関わることで、学びや喜び、励みを得ることができる
という意見が多く、高齢者との関わり合いの中で多くを学び、自分の成長へとつながることも介護職のやりがいです。
介護職のメリット
介護職は「きつい・大変」と感じることもありますが、その分大きなメリットがある仕事でもあります。キャリアアップ、給料、働き方、介護スキルのそれぞれのメリットについて説明します。
キャリアアップしやすい
介護人材の確保、介護人材の待遇改善、介護の質の担保に向けて、国を挙げて介護職員の段階的なキャリアパスが整えられ、キャリアアップを図りやすくなっています。
介護職員初任者研修、介護職員実務者研修を経て介護福祉士、認定介護福祉士を目指す道や、介護福祉士から介護支援専門員(ケアマネジャー)を目指す道などがあり、全くの無資格者からでもキャリアアップを図っていくことで、活躍の場が広がります。
介護職の給料は上昇傾向
キャリアアップの仕組みが整えられたことで、未経験や無資格から資格を取得することによる給料アップが見込めます。
また、介護職員の処遇改善のためにできた「介護職員処遇改善加算」によって、キャリアパス要件や職場環境等要件を満たした職場では、満たした要件によって、介護職員一人当たり月額12,000円相当~37,000円相当までの加算を受けることができます。加算の届け出をしている事業所であれば、段階的な給料アップを期待することができます。
多様な働き方ができる
介護施設にはさまざまな勤務形態があり、求人情報をみても、フルタイム正社員はもちろん、夜勤専従やパート、派遣など、多様な働き方をすることができます。
しっかりと働きたい場合はフルタイム正社員、子どもが学校に行っている間だけという場合は午前中のみのパート、日中は勉学などの自分の時間に使いたい場合は夜勤専従など、自分の都合やライフイベントに合わせた働き方が可能です。
家族の介護でスキルが活かせる
介護現場で培ったスキルや知識を、自分の家族に介護が必要になった場合などの職場以外の場で活かすことができます。
介護職は「きつい・大変」な面もあるけれど、やりがいを得られて自分も成長できる仕事
介護職は利用者さんに直接触れ、生活に入り込んでサポートを行うという性質上、体力的、精神的に「きつい・大変」と思う面もあります。しかし、人生の先輩である高齢者と関わる仕事であるがゆえに、学ぶこと、得られることも多く、自分自身が成長できる仕事でもあります。
人手不足や待遇面についても、まだ課題はありますが、改善が進んでいます。介護のお仕事に少しで「興味がある」という方はぜひチャレンジしてはいかがでしょうか。