ADL維持等加算とは利用者の日常生活動作(ADL)を維持、向上する体制を整えた上で、実際に改善が見られた事業所が算定できる加算です。2021(令和3)年度の介護報酬改定で算定要件や単位数などに変更があったため、該当する事業者やこれから算定を目指す事業者は新しい内容をしっかり確認しましょう。
この記事では初めて算定する事業者にもわかりやすく、ADL維持等加算の基本情報を解説していきます。算定要件や単位数、LIFEの提出に関する情報まで、算定方法をまとめました。
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目次
ADL維持等加算とは?
ADL維持等加算とは、利用者の日常生活動作(ADL)を維持、向上する体制を整え、実際に現状維持や改善が見られた事業所を評価する加算です。2018(平成30)年度の改定で新設された加算で、2021(令和3)年度の介護報酬改定で見直しが行われました。
従来のADL維持等加算は条件が複雑で、算定のハードルが非常に高い状況にありました。実際に、平成31年4月時点での算定率は通所介護が2.6%、地域密着型通所介護はわずか0.3%でした。算定率の低さから内容が見直され、改定後は単位数の引き上げに加え、算定要件が緩和されたことで、対象するサービスが拡充されました。さらに体制評価からアウトカム評価に変更され、認知症の視点も加わり、より利用者および入居者の自立支援や重度化防止を重視する加算となりました。
参考:(1)介護保険制度におけるサービスの質の 評価に関する調査研究事業 (結果概要)(案)|厚生労働省
ADL維持等加算対象の介護サービス種別と利用者
【ADL維持等加算の対象サービス】
- 通所介護
- 地域密着型通所介護
- 認知症対応型通所介護
- 特定施設入居者生活介護
- 地域密着型特定施設入居者生活介護
- 介護老人福祉施設
- 地域密着型介護老人福祉施設
上記、3~7の5つの介護サービスが、令和3年度の介護報酬改定で追加されました。また、算定要件を満たした場合、ADL維持等加算はすべての利用者が算定できます。
ADL維持等加算の算定方法
ADL維持等加算は、令和3年度の介護報酬改定でアウトカム評価の加算になりました。これまでは利用者のADLを維持、向上を目的に改善するための体制を整えている事業所が算定できました。しかし改定後からは実際にADL値の改善が見られた事業所および施設が評価され、算定できます。
また、ADL維持等加算では1年間の評価期間を経た後で、翌年1年間が算定期間となります。
ADL維持等加算の届け出提出 | 評価期間 | 算定期間 |
---|---|---|
2023(令和5)年6月 | 2023(令和5)年6月~2024(令和6)年5月 | 2024(令和6)年6月~2025(令和6)年5月 |
評価期間とは、算定要件に従って取り組みを実施した上で、改善状況を評価する期間です。評価は集計したADL値で判断され、数値の改善が見られた事業者が算定できます。
ADL維持等加算の単位と算定要件
ADL維持等加算Ⅰ | 30単位/月 |
|
---|---|---|
ADL維持等加算Ⅱ | 60単位/月 |
|
ADL維持等加算Ⅲ ※2023(令和5)年3月31日まで |
3単位/月 |
|
参考:令和3年度介護報酬改定の主な事項について|厚生労働省、令和4年度ADL維持等加算(Ⅲ)算定事業所|北海道庁
以前の算定要件では利用者の総数は「20人以上」でしたが、「10人以上」に条件が緩和され、小規模な事業者でも算定しやすくなりました。
また、今回も利用者のADLの状態をBarthel Index(バーセルインデックス)で評価し、数値化することが求められています。このADLの数値が1以上改善した場合はADL維持等加算Ⅰ、2以上改善が見られた場合はADL維持等加算Ⅱの算定が可能です。なおADL維持等加算ⅠとADL維持等加算Ⅱの併算定はできません。
関連記事:バーセルインデックスとは?意味や目的などを詳しく説明します
ADL維持等加算に関するQ&A
ADL維持等加算に関する、よくある疑問点についてQ&Aで紹介していきます。
一定の研修とは?
Barthel Indexを正しく測定するため、測定を行う従業員にも要件が設けられています。測定を行う従業員は、Barthel Indexの測定方法について学べる研修に参加するか、もしくは厚生労働省が作成したマニュアル・動画などで学習する必要があります。
以下の研修や動画などを参考にしてください。
【Barthel Index研修】
【厚生労働省のマニュアル・動画】
事業者は従業員に定期的に外部、内部の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士から学ぶ研修の機会を与え、測定の質の管理が必要です。また、従業員が初めてBarthel Indexを実施する際には、理学療法士などをその場に同席させなければなりません。
Barthel Indexとは?
Barthel Indexとは利用者のADLの状態を正しく判断するための評価スケールです。食事や入浴、歩行など日常生活動作の10項目を自立度(自立、一部介助、全介助)で評価し、100点満点で採点します。
項目 | 点数 | 評価基準 |
---|---|---|
食事 | 10点 | 自立、手の届くところに食べ物を置けば、トイレあるいはテーブルから1人で接触可能、必要なら介助器具をつけることができ、適切な時間内食事が終わる |
5点 | 食べ物を切る等、介助が必要 | |
0点 | 全介助 | |
移乗 | 15点 | 自立、車椅子で安全にベッドに近づき、ブレーキをかけ、フットレストを上げてベッドに移り、臥位になる。再び起きて車椅子を適切な位置において、腰掛ける動作がすべて自立 |
10点 | どの段階かで、部分介助あるいは監視が必要 | |
5点 | 座ることはできるが、移動は全介助 | |
0点 | 全介助 | |
整容 | 5点 | 自立(洗面、歯磨き、整髪、ひげそり) |
0点 | 全介助 | |
トイレ動作 | 10点 | 自立、衣服の操作、後始末を含む。ポータブル便器を用いているときは、その洗浄までできる |
5点 | 部分介助、体を支えたり、トイレットペーパーを用いることに介助 | |
0点 | 全介助 | |
入浴 | 5点 | 自立(浴槽につかる、シャワーを使う) |
0点 | 全介助 | |
移動 | 15点 | 自立、45m以上平地歩行可、補装具の使用はかまわないが、車椅子、歩行器は不可 |
10点 | 介助や監視が必要であれば、45m平地歩行可 | |
5点 | 歩行不能の場合、車椅子をうまく操作し、少なくとも45mは移動できる | |
0点 | 全介助 | |
階段昇降 | 10点 | 自立、手すり、杖などの使用はかまわない |
5点 | 介助又は監視を要する | |
0点 | 全介助 | |
着替え | 10点 | 自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む |
5点 | 部分介助を要するが、少なくとも半分以上の部分は自分でできる。適切な時間内にできる | |
0点 | 全介助 | |
排便コントロール | 10点 | 失禁なし、浣腸、座薬の取り扱いも可能 |
5点 | 時に失禁あり、浣腸、座薬の取り扱いに介助を要する | |
0点 | 全介助 | |
排尿コントロール | 10点 | 失禁なし |
5点 | 時に失禁あり、収尿器の取り扱いに介助を要する場合も含む | |
0点 | 全介助 |
引用:ADL維持等加算(Ⅰ)又は(Ⅱ)の算定要件の考え方> 【対象サービス】通所介護|姫路市役所
LIFEに提出する情報は?
LIFEには、すべての利用者のADL値を提出しなければなりません。合計値ではなく、利用者ごとにそれぞれの値を提出する必要があります。1人でもADL値の測定ができない利用者がいれば、加算の取り下げとなるため注意しましょう。
情報の提出は、ADL値を測定するタイミングごとに行います。つまり、ADL維持等加算の取り組みを始める最初の月と、7カ月後の月にそれぞれ提出が必要です。提出期限は翌月の10日までとなっています。
ADL値の測定が必要な対象月に、サービスの利用がない利用者に関しては直近の情報を提出してください。
LIFEへの入力方法は?
LIFEを利用するには、まず利用申請を行い、事前に利用者情報などを登録しておく必要があります。
登録が済んだら、「ADL維持等加算算定」のボタンをクリックし、入力ページへと進んでください。対象サービスを選択すると、該当の利用者が一覧で表示されます。評価対象期間を入力したら、利用者ごとに必要な情報を登録していきましょう。
いつから算定できる?
ADL維持等加算ⅠとⅡは届け出を提出した月の1年後から算定できます。ただし届け出を提出してから1年間で、利用者のADL値の平均が1以上または2以上でなければなりません。評価期間で算定要件を満たすことができなければ、算定の取り消しとなります。
ADL維持等加算を算定するには、ADL維持等加算の取り組みを開始する月(評価期間の初月)に書類を提出します。その際、介護給付費算定に係る体制等状況一覧表のなかにある「ADL維持等加算(申出)の有無」を「あり」にして提出する必要があります。基本的に、翌年の算定時には書類の提出は不要です。
ADL維持等加算Ⅲの経過措置はいつまで?
令和5年3月31日まで算定が可能です。ADL維持等加算Ⅲは従来のADL維持等加算Ⅰと同条件で算定できる加算で、経過措置として設けられています。令和3年3月31日時点で従来のADL維持等加算を申請し、かつ改定後のADL維持等加算ⅠおよびADL維持等加算Ⅱを算定していない事業者が対象です。
ADL維持等加算について正しく理解し算定しよう
ADL維持等加算は、一定期間ADLを維持・向上できた、または改善度合いが一定水準を超えた施設や事業所を評価するアウトカム評価の加算です。従来より算定要件が緩和された上に、単位数も増えたため、より前向きに算定しやすい加算となりました。
さらにADL維持等加算の算定は、利用者および入居者への自立支援や重度化防止のための機能訓練を基にケアを提供する上でも非常に重要です。加算に関わる理学療法士などの専門職だけでなく、介護職も含め、適切に理解した上で算定を行うようにしましょう。