【2021年介護報酬改定】通所介護が勝ち残るための戦略とは

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2021年度介護報酬改定のポイントや新設加算について、通所介護事業所の視点で解説し、勝ち残るための戦略を考えていきます。

2021年度介護報酬改定における5つの柱

2021年度の介護報酬改定においては、5つの大きな柱が示されています。

①感染症や災害への対応力強化
②地域包括ケアシステムの推進
③自立支援・重度化防止の取組の推進
④介護人材の確保・介護現場の革新 
⑤制度の安定性・持続可能性の確保

2021年度の介護報酬改定における注目ポイントを考えると、LIFEを活用した科学的介護への取組が真っ先に挙げられるでしょう。これにともなう加算の区分が多岐にわたるため、運営体制を整え、要件を満たし、取得するように注意する必要があります。

また新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、感染の懸念から利用自粛に伴う稼働率の低下に苦しんだ通所介護事業所は少なくなかったはずです。感染や災害時などの様々なトラブルに遭遇した時でも業務が安定的に継続できるような特例措置を設け、継続した運営が継続できるようにする取り組みも今回の改定の特徴といえます。

なお、今回の改定率は+0.70%の微増にとどまっています。

2021年度介護報酬改定における通所介護のポイントとは

今回の介護報酬改定においては、基本報酬はすべての類型においてプラス改定となっています。通常規模型や大規模型(I)と(II)で1%ほど、地域密着型では1.5%程度アップしていることになります。詳しくは下の表をご覧ください。

【基本報酬単位数一覧】※カッコ内の数字は旧単価

①通所介護 通常規模型

要介護1要介護2要介護3要介護4要介護5
3~4時間未満368(364)421(417)477(472)530(525)585(579)
4~5時間未満386(382)442(438)500(495)557(551)614(608)
5~6時間未満567(561)670(663)773(765)876(867)979(969)
6~7時間未満581(575)686(679)792(784)897(888)1003(993)
7~8時間未満655(648)773(765)896(887)1,018(1,008)1,142(1,130)
8~9時間未満666(659)787(779)911(902)1,036(1,026)1,162(1,150)

②通所介護 大規模型(I)

要介護1要介護2要介護3要介護4要介護5
3~4時間未満356(352)407(403)460(455)511(506)565(559)
4~5時間未満374(370)428(424)484(479)538(533)594(588)
5~6時間未満541(536)640(634)739(732)836(828)935(926)
6~7時間未満561(555)664(657)766(758)867(858)969(959)
7~8時間未満626(620)740(733)857(848)975(965)1,092(1,081)
8~9時間未満644(637)761(753)881(872)1,002(992)1,122(1,111)

③大規模型通所介護費(II)

要介護1要介護2要介護3要介護4要介護5
3~4時間未満343(340)393(389)444(440)493(488)546(540)
4~5時間未満360(356)412(408)466(461)518(513)572(566)
5~6時間未満522(517)617(611)712(705)808(800)903(894)
6~7時間未満540(535)638(632)736(729)835(827)934(925)
7~8時間未満604(598)713(706)826(818)941(931)1,054(1,043)
8~9時間未満620(614)733(726)848(839)965(955)1,081(1,070)

④地域密着型通所介護費(1日につき)

要介護1要介護2要介護3要介護4要介護5
3~4時間未満415(409)476(469)538(530)598(589)661(651)
4~5時間未満435(428)499(491)564(555)627(617)693(682)
5~6時間未満655(645)773(761)893(879)1,010(995)1,130(1,113)
6~7時間未満676(666)798(786)922(908)1,045(1,029)1,168(1,150)
7~8時間未満750(739)887(873)1,028(1,012)1,168(1,150)1,308(1,288)
8~9時間未満780(768)922(908)1,068(1,052)1,216(1,197)1,360(1,339)

これらを見て、「すべての利用者においてプラスになっているのだから、収益はアップするだろう」と考えるのは誤りです。基本報酬のプラス改定には、実は単純に報酬が上がる訳ではないという大きな落とし穴がひそんでいます。

新設加算への対応が重要

今回の介護報酬改定では、通所介護の加算に大幅な見直しが行われています。特に「入浴介助加算」と「個別機能訓練加算」は、今までと同じ体制ではマイナスとなってしまい、基本報酬のプラス分が相殺されてしまうのです。通所介護事業所にとっては、一見プラス改定と思っても、ふたを開けると減収の危機ということになります。それを防ぐためにはどうすればよいのかを詳しく見ていきましょう。

【入浴介助加算の見直し】

現行改定後
入浴介助加算  50単位/日入浴介助加算(I)  40単位/日
入浴介助加算(II)    55単位/日 
※(I)と(II)は併算定付加

【算定要件】

入浴加算介助(I)入浴介助を適切に行うことができる人員および設備を有して入浴介助を行う 
※現行の入浴介助加算と同じ要件
入浴介助加算(II)・医師等が居宅を訪問し、利用者の動作および浴室環境を評価する。入浴が難しい場合は医師等が介護支援専門員、福祉用具専門相談員と連携し、福祉用具貸与や購入、住宅改修などの助言を行う
・機能訓練指導員等が医師等と連携し、居宅浴室の環境をふまえた個別の入浴計画を作成する
・入浴計画に基づき、個浴その他の居宅の状況に近い形で入浴介助を行う

入浴介助加算に関しては、現行と同じ要件の(I)であれば1日10単位の減収となってしまいます。それを防ぐためには上位加算の(II)を算定したいところです。

しかし通所介護の浴室で個浴を備えていない浴室環境の場合や、居宅の状態に近い形に変更することが設備運営上難しい場合、利用者自身が自宅での入浴を望まない場合、浴室の環境上で自宅での入浴は難しい場合には(II)の算定も難しくなります。

通所介護を定期的に利用する目的が入浴になり、自宅での入浴を行っていない利用者は多いです。そして通所介護における浴室には段差のない大浴場が多く見られ、浴槽のまたぎの動作が不要な場合がほとんどですが、段差をあえて作るなど工夫をし、算定していくことも検討されると良いでしょう。個浴設備の有無や浴室の設備運営上により、上位区分の加算算定が可能かどうか判断のわかれるところです。

【個別機能訓練加算の見直し】

現行改定後
個別機能訓練加算(I) 46単位/日
個別機能訓練加算(II)56単位/日
個別機能訓練加算(I) イ 46単位/日
個別機能訓練加算(I) ロ 85単位/日
個別機能訓練加算(II)      20単位/日   
 ※イとロは併算定付加 
※(II)は(I)に上乗せして算定

【算定要件】

ニーズの把握・機能訓練指導員が利用者の居宅を訪問してニーズを把握
・居宅での生活状況を確認
機能訓練指導員の配置(I)イ:専従1名以上(配置時間の定めなし)
(I)ロ:専従1名以上(提供時間帯を通じて配置)
計画作成居宅訪問で把握したニーズと生活状況を参考に多職種共同でアセスメントを行い、個別機能訓練計画書を作成
機能訓練項目心身の状況に応じて身体機能および生活機能の向上を目的とする機能訓練項目を柔軟に設定
訓練の対象者5人程度以下の小集団または個別
訓練の実施者機能訓練指導員が直接実施(介護職員の補助は可能)
進捗状況の評価3ヶ月に1回以上、居宅を訪問して生活状況を確認利用者または家族に個別機能訓練計画の進捗状況を説明、状況に応じて計画の見直しを行う

さらに加算(II)は、(I)に加えてLIFEへのデータ提出とフィードバックの活用をしていることが求められています。

上記のように、上位区分加算を取るためには人材確保や設備投資が必要になる場合もあり、環境整備などが難しい場合は加算取得が難しくなります。しかし科学的介護の推進は今回の改定にとどまらず、次の2024年度介護報酬改定においてさらに拡充が予想されます。特に人材の確保は行政のホームページも確認しながら、次期改正の方向を踏まえながら対応することが、今後の経営の継続にも必要になります。今から次回改定も見据えて対策を取ることが重要になってくるでしょう。

人員配置や人材育成もキーワードに

2021年度の介護報酬改定では、サービス提供体制強化加算の見直しが行われています。通所介護と地域密着型通所介護ではどのように要件が変わったのかを見てみましょう。

サービス提供体制強化加算(I)22単位/回次のいずれかに該当すること
・介護福祉士70%以上
・勤続10年以上の介護福祉士25%以上
サービス提供体制強化加算(II)18単位/回・介護福祉士50%以上
サービス提供体制強化加算(III)6単位/回次のいずれかに該当すること
・介護福祉士40%以上
・勤続7年以上の者が30%以上

勤続年数については今から対策を取るのは難しいため、介護福祉士の割合について注目することが良策でしょう。有資格者の採用はもちろん、在籍する職員で受験資格がある人に実務者を受講し、資格を取ってもらうよう、早めに働きかけることが大切です。実務者研修受講料は、自治体の補助金を活用出来ます。資格取得のために休暇を取りやすい環境整備、資格取得のための対策講座への参加や有資格者による勉強会の開催など、事業所からのバックアップがあると受験の意欲につながりやすいでしょう。職員にも説明し、理解と協力を得て、最上位区分を算定できるような体制を早急に整えることが、人材定着や確保にも重要です。

常勤換算の取り扱いについても、見逃せないものがあります。育児や介護を理由に時短勤務を講じている場合、30時間以上の勤務で常勤換算としてカウントすることが可能になります。また常勤要件が設けられている職種の職員が、産前産後休業や育児休業を取得している期間に限って、複数の非常勤職員を常勤の従業員数に換算して人員基準を満たすことが可能になりました。

職員のライフワークバランスによる不利益を防ぎ、キャリアを継続していける環境整備を行うことは、人材定着のための環境整備の基本です。勤続年数を重ね、自信を持てる体制を作り、段階踏まえた資格取得の道を選べるよう、働きやすい環境整備を行うことは人材確保や人材育成の観点からも大事なことです。

キャリアパスを整備した職場環境の良い事業所が高く評価されるようになり、質の高いサービスの提供が可能になります。その結果が、有資格者や勤続年数の長い職員を確保することにつながるでしょう。認知症介護基礎研修の受講も義務付けられたので、その先のキャリアパスを整備することの第一歩かもしれません。

今回の介護報酬改定では、専門職の配置が求められているものが多くあります。たとえば認知症加算では、認知症ケアに関する専門研修を修了した者の配置が求められています。具体的には、認知症介護実践リーダー研修や認知症介護指導者養成研修がそれにあたります。または専門性の高い看護師もそれに該当し、精神科認定看護師などいくつかの要件があります。

認知症介護実践リーダー研修などは年に1回の実施であり、受講人数にも制限があるため、来年度以降の受講希望者が殺到する可能性もあります。行政のホームページも確認を行い、現在の人員のなかから受講させることが出来るよう早めの準備が必要です。

以前から看護職員の人員基準については、看護師確保の難しさから若干要件が緩和されています。病院や診療所、訪問看護ステーションとの連携によって看護師を確保することが可能となりました。地域とのつながりを確保するためにも、連携を進めることが求められるようになるでしょう。

リハビリテーションや機能訓練、口腔、栄養の一体的な推進

今までのリハビリテーションや機能訓練は、計画書を作成して計画を実施すれば算定をすることができました。しかし今はバーセルインデックスによる指標を用いて、ADLが向上したことを評価する流れができています。今回の改定では情報収集とフィードバックの段階とにとどまっており、アウトカム評価には至っていません。しかしフィードバックによるケアの質の向上を求められていますので、今後の介護報酬改定では、アウトカム評価によって大幅な加算が行われるであろうことが予想されます。

「リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の取組の連携・強化」は、今までそれぞれ別々に実施されていた複数の情報を、ひとつの様式に一体化するということです。つまり、いずれ一体的な取組に対する評価がなされるようになることが予想されます。

人口741,588人
東京都全体の5.56%
高齢者人口160,733人
東京都全体の5.16%
高齢化率 21.67%
東京都全体は23.3%
介護事業所数 1,043事業所
23区内で2位、東京都全体の5.96%

LIFEの関連する加算は、次回2024年度の介護報酬改定でさらに今回含まれなかった居宅介護支援や訪問介護にも拡充することが予想されます。上の表における加算の多くは専門職の関わりや評価が求められ、ひととおりすべてを算定することは難しいかもしれません。

今までの介護保険制度は、要介護度の高い利用者のほうが利幅は大きいシステムでした。今後は尊厳の保持や自立支援の考えのもと、機能の維持向上に努めるという介護保険本来の理念に立ち返ることが主流となるでしょう。今後の通所介護は、リハビリ特化型や認知症対応型のような強みを持った特化型サービスを展開することが事業継続のカギになるかもしれません。

地域等との連携強化で運営する通所介護

地域に開かれた通所介護は、住民への認知度が広がるため、ゆくゆくはその地域で選ばれる事業所となりえます。今回の介護報酬改定では、様々な形で地域との連携が求められています。

非常災害対策として、避難訓練を実施する際に地域住民の参加が求められるようになりました。具体的には、町内会や自治会など地域の組織における方々と連携し、合同の避難訓練を行うなどが考えられます。

最も対応しやすい例としては、すでに通所介護内で実施している機能訓練やレクリエーションをイベントとして定期的に地域住民を含めて実施することが挙げられます。ボランティアによる演奏会や余興なども、地域住民としては関心がある人も多いでしょう。通所介護の利用者自身も地域住民である場合が多いため、集いや交流の場としての側面も期待できます。

そのような行事を実施する際にも、町内会や自治会、老人会や民生委員と連携することが重要になります。地域の各種団体の役員の皆さんと連携することで、イベントの広報を依頼をすることも可能になり、通所介護事業所の認知を高め、顧客獲得が期待できます。

また通所介護の設備基準以外のスペースや営業時間外を活用し、認知症カフェの運営や会場提供なども考えられます。職員が関わりを持つことで、認知症に対する理解が深まる効果も期待でき、また地域の課題も見えてくることでしょう。

地域によって環境は様々なので一様にはいえない部分もありますが、考えられる方法は多岐にわたるでしょう。直接収益には関係ないようなことに見えますが、その地域で通所介護事業を行なっていることで、介護相談を受けるきっかけにもなりますので、積極的に地域との連携を深めることをおすすめします。

先を見た経営を考えるなら、2021年度介護報酬改定の新設加算の算定がカギ

これまで述べてきたとおり、2021年度の介護報酬改定は+0.70%というプラス改定となりました。通所介護においては、すべての類型において基本報酬が増えている状況です。しかしプラスの改定に見えても、実は安心していると減収になってしまう可能性があります。

今回の介護報酬改定で先送りされた内容のひとつに、要介護1~2である軽度者のデイサービス利用を、市町村の総合事業へ移行するというプランがありました。しかし総合事業の受け皿が不足しているため今回の実施は見送られ、まずは整備からとなりました。次回の2024年介護報酬改定までに受け皿の整備が整えば、要介護1~2は総合事業へ移行する可能性が十分にあります。通所介護の今後の方向性が厳しい状況にならないように、今から機能訓練メニューの内容等の整備が必要です。

今回新設された上位区分加算はハードルの高いものも多く、すべての通所介護がスムーズに算定できるものではないかもしれません。しかし2024年度の改定が医療と介護のダブル改定であることを考えると、今回よりもさらに大きな改定があることも予測できます。人材育成や人員確保の整備は1日にして出来るものではありません。次の報酬改定も踏まえ、今のうちから対策を講じ、先を見た経営をすることが、通所介護事業所が継続して、勝ち残っていくためのカギとなっていくでしょう。

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