2021年度介護報酬改定で訪問介護が成長するには

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2021年度介護報酬改定で訪問介護が成長するには

介護報酬とは、介護サービスの対価として介護事業者に支払われるもので、介護事業者を経営していくための事業収入となります。3年に一度改定が行われますが、その方向性で適切に加算取得を行わないと事業収入の増減があるかもしれません。介護報酬改定は、事業所の経営を大きく左右することとなるため、早くから注目が集まります。

2021年度介護報酬改定において訪問介護事業所にはどのような変更があったのか、また今後安定経営と事業発展していくためには、どのような戦略が必要なのかを徹底解説します。


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2021年度介護報酬改定、5つの柱とは

2021年度の介護報酬改定において、全体の改定率は+0.70%と微増になりました。これには、新型コロナウイルス感染症に対応するための特例的な評価も含まれています。訪問介護の現場においても、感染症拡大防止の対策は大きな課題となっているでしょう。

2021年度介護報酬改定の概要を下表にまとめました。

2021年度介護報酬改定の概要 
1. 感染症や災害への対応力強化 
2. 地域包括ケアシステムの推進 
3. 自立支援・重度化防止の取り組みの推進 
4. 介護人材の確保・介護現場の革新 
5. 制度の安定性・持続可能性の確保

出典:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定の主な事項について」

今回の介護報酬改定の特徴は、感染症や大規模災害への対応力強化に伴う事業継続を図ることです。訪問介護に関係する改定にのみ注目すると、「地域包括ケアの推進」と「介護人材の確保・介護現場の革新」の項目において大幅に見直されています。

2021年度介護報酬改定で訪問介護はどう変わったのか?

2021年度介護報酬改定では、全体の改定率が+0.70%となりました。訪問介護に関わる報酬がどのように変わったかを説明します。

訪問介護の基本報酬はどう変わった?

今回の改定において、基本的にすべての介護保険サービスにおいて基本報酬が引き上げられました。しかし、訪問介護の基本報酬は1~2単位の引き上げにとどまっています。

なお、介護予防・日常生活支援総合事業については各市町村により単位設定が異なるので、自治体へお問い合わせください。

サービス種別事業所数練馬区の全介護事業所数に占める割合東京都の各サービス種別に占める割合
訪問系訪問介護19218.40%6.00%
夜間対応型訪問介護20.19%5.40%
定期巡回・随時対応型訪問介護看護60.57%6.38%
訪問入浴介護70.67%4.57%
訪問看護726.90%5.36%
訪問リハビリテーション161.53%5.24%
通所系通所介護807.67%4.92%
地域密着型通所介護12912.36%6.71%
認知症対応型通所介護151.43%3.72%
通所リハビリテーション232.20%5.73%
ショート短期入所生活介護373.54%5.97%
短期入所療養介護 介護老人保健施設111.05%5.75%
小多機系小規模多機能型居宅介護161.53%6.89%
看護小規模多機能型居宅介護(複合型サービス)40.38%8.16%
福祉用具特定福祉用具販売242.30%6.26%
福祉用具貸与383.64%6.34%
居宅介護支援居宅介護支援21520.61%6.04%
グループホーム認知症対応型共同生活介護363.45%5.41%
有料老人ホーム特定施設入居者生活介護有料老人ホーム40.38%8.93%
軽費老人ホーム特定施設入居者生活介護軽費老人ホーム---
特養介護老人福祉施設333.16%5.93%
地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護---
老健介護老人保健施設141.34%6.79%
介護医療院介護療養型医療施設10.09%2.32%
総計1,043

出典:厚生労働省「第199回社会保障審議会介護給付費分科会(Web会議)資料2介護報酬の算定構造」をもとに作成

介護職員のなかでも、施設介護職員と比較して訪問介護員の高齢化や有効求人倍率15倍の中で人員不足が顕著になっており、基本報酬の引き上げに期待を寄せていた方も多かったことでしょう。2019年度の厚生労働省調査では、施設介護職員の有効求人倍率が4.31倍だったのに対し、訪問介護員の有効求人倍率が15.03倍という驚くべき数字となったことが話題となりました。

8割の事業所が「訪問介護員の不足を感じる」と回答しており、人員不足は非常に深刻です。今回引き上げられた報酬をすべて給与にあてたとしても、時給にして10~20円程度のアップにしかならず、非常に厳しい印象です。

出典:厚生労働省「第182回社会保障審議会介護給付費分科会(Web会議)【資料2】訪問介護・訪問入浴介護」より抜粋

訪問介護に関する加算・減算の改定

訪問介護に関する加算や減算は、新設区分や算定要件の変更が多くあります。基本報酬の上げ幅がわずかな分、新設加算や上位加算を取りにいくことが経営を安定させるためには重要です。下表にまとめたので見てみましょう。

【特定事業所加算】の見直し

 (新設)特定事業所加算(V):所定単位数の3%を加算

職種性別年収年間賞与その他特別給与額所定内給与額きまって支給する現金給与額年齢勤続年数所定内実郎時間数超過実労働時間数労働者数

ホームヘルパー男性404.7万37.5万28.1万30.6万42.9歳8年163時間10時間3,890人

女性355.2万35.3万24.8万26.7万50.2歳7.3年154時間9時間6,090人

福祉施設介護職員男性421.8万59.4万28.3万30.2万39.8歳6.7年161時間9時間27,140人

女性386.5万52.1万26.2万27.9万42.8歳6.4年159時間8時間32,400人

【認知症専門ケア加算】

 (新設)認知症専門ケア加算(I) :1日につき+3単位

     認知症専門ケア加算(II):1日につき+4単位

職種介護職(施設・通所系)
サービス形態特別養護老人ホーム
勤務地東京都練馬区
東武東上線「成増駅」から「石神井公園駅北口行き」バスに乗車
「土支田二丁目バス停」から徒歩7分
給与詳細月給:274,800円~ ※諸手当含む
【諸手当】
夜勤手当:10,000円×4回
皆勤手当:5,000円
処遇改善手当:あり
【その他】
通勤交通費:支給(規定あり)
住宅手当:30,000円/月(規定あり)
勤務時間(1)07:00~16:00
(2)08:45~17:45
(3)10:00~19:00
(4)17:00~翌10:00
※実働時間:8時間 残業ほぼなし
休日休暇シフト制、4週8休
夏季・冬季・慶弔・有給休暇・産休育休
福利厚生社員食堂(250円/1回)
寮あり(単身者用)
医療補助制度あり(職員本人と配偶者、お子様)

【生活機能向上連携加算】の見直し

生活機能向上訓練加算(II)の要件見直し
・サービス提供責任者とリハビリテーション専門職等が利用者の自宅を訪問し、共同してカンファレンスを行う

利用者・ご家族も参加するサービス担当者会議の前後に、時間を明確に区分した上で実施するサービス提供責任者およびリハビリテーション専門職等によるカンファレンスでも差し支えない

【介護職員処遇改善加算】の見直し

職種介護職(施設・通所系)
サービス形態有料老人ホーム
勤務地東京都練馬区
西武池袋線「石神井公園駅」より北東へ徒歩約11分(880m)
給与帯・賞与月給:251,000円~281,000円
年収:3,660,000円~4,110,000円
賞与:648,000円~738,000円 年2回 合計3ヶ月分※前年度実績
交通費別途支給(上限5万)
勤務時間(1)07:00~16:00
(2)09:00~18:00
(3)10:00~19:00
(4)17:00~翌10:00
※標準労働時間:8時間 夜勤回数:月平均5回
休日年間休日115日(月8日~10日)
福利厚生資格取得支援制度
・初任者研修、実務者研修は受講料の半額を負担
・介護福祉士、介護支援専門員は合格者へ報奨金支給(3万円)
社宅、社員寮あり、住宅補助あり

訪問介護に関するその他の改定

加算や減算に関するもの以外の改定をまとめました。直接的に収益には影響のない改定ですが、間接的に訪問介護事業所の今後を左右することにもなりえる内容となっています。

【処遇改善加算】職場環境等要件の見直し

・職場環境等要件に定める取り組みについて、職員の離職防止や定着の促進をはかる観点から、下の取り組みが促進されるように見直す 
●職員の新規採用や定着促進に関する取り組み 
●職員のキャリアアップに資する取り組み 
●両立支援・多様な働き方の推進に資する取り組み 
●腰痛を含む業務に関する心身の不調に対する取り組み 
●生産性の向上につながる取り組み 
●仕事へのやりがい
・働きがいの醸成や職場のコミュニケーションの円滑化等、職員の勤務継続に資する取り組み
・職場環境要件にもとづく取り組みの実施について、その年度における取組の実施を求める

【看取り期の対応の強化】

看取り期の利用者を訪問する場合に、2時間ルール(2時間未満の間隔のサービス提供は所要時間を合算すること)を弾力化し、所要時間を合算せずにそれぞれの所定単位数の算定を可能にする

【通院等乗降介助】の見直し

利用者の負担軽減や利便性向上のため、居宅が始点または終点となる目的地間の移送についても算定可能とする

【サ高住等における適正なサービス提供の確保】

・事業所と同一建物に居住の利用者に対してサービス提供を行う場合、その建物に居住の利用者以外に対してもサービスを提供するよう努めること
・事業所を市町村が指定する際、たとえば当該事業所の利用者のうち一定割合以上を当該事業所併設の集合住宅以外に住む利用者とするよう努める、またはしなければならない等の条件を付することを明確化する

【情報公開制度における変更】

介護サービス情報公表制度において、従業者の認知症介護実践者研修の受講状況などの認知症にかかる事業者の取り組み状況を公表する項目が新設

居宅介護支援事業所の変更点にも注目!

2021年度介護報酬改定において、今後の訪問介護事業所はどのように動くべきかを考えるにあたり、居宅介護支援事業所の変更点は見逃せないものがあります。以前より指摘がある「生活援助の訪問回数の多い利用者等のケアプラン」について、検証の仕組みの見直しがありました。

人口542,575人
東京都全体の4.09%
高齢者人口130,672人
東京都全体の4.22%
高齢化率 24.1%
東京都全体は23.4%
介護事業所数 796事業所
東京都の介護事業所の4.55%

これにより、保険者からサービス内容の是正を促される場合があります。該当しそうなケースがある場合は、そのサービスの必要性や根拠をケアマネジャーの作成するケアプランを基に明確にしなければなりません。日々のサービス提供中のアセスメントやモニタリングの場面において、なぜそのサービスが必要なのか、そのサービスが妥当であるのか、自立支援や重度化防止の観点からもう一度考えてみるべきでしょう。

老計10号にも示されている「見守り的援助」もご確認の上、利用者と共に行うことにより生活援助としてではなく、身体介護の算定が可能かどうかもひとつのポイントとなります。

もうひとつが、居宅介護支援事業所の特定事業所加算の見直しです。

必要に応じて、多様な主体などが提供する生活支援のサービス(インフォーマルサービスを含む)が包括的に提供されるような居宅サービス計画を作成していることを要件として求める

インフォーマルサービスとは、公的なフォーマルサービスに対してご家族や地域住民、ボランティアなどが行う活動のことです。個人の活動や支援だけに限らず、民間企業のサービスも社会資源として含まれます。もちろん、これには訪問介護事業所が提供する保険外サービス(自費サービス)も該当します。これからは公助のみでなくインフォーマルサービスの共助も含んだケアプランが求められてくることになるでしょう。

2018年から2021年まで、東京都豊島区において「選択性介護モデル事業」が行われました。介護保険と保険外のサービスを組み合わせて提供すること、すなわち「混合介護」のモデル事業です。今後制度化されるかどうかの検討がされています。

訪問介護事業所が保険外サービスで介護保険では出来ないサービスを提供することにより、上記で挙げた生活援助中心型の対策ともなることでしょう。また通院等乗降介助などとからめ、2科の院内介助などのサービス展開も可能となります。介護保険外サービスでは、介護保険では対応できないペットのお世話や同居家族への対応も可能となります。

今後の混合介護のニーズに備えて、保険外サービスに取り組むのもひとつの方法といえます。

訪問介護にLIFEが導入される可能性も?

今回の介護報酬改定において、科学的介護情報システム(LIFE)が導入されたことが大きな話題となっています。利用者の情報や介護サービス提供に関するデータを厚生労働省に提出し、データ解析によるフィードバックを活用しつつ、科学的に裏付けされた介護の実現を目指してサービスの質の向上をはかるという目的です。今回、訪問介護事業所への導入は見送られましたが、今後の動きはどうなっていくのでしょうか。

実はすでに訪問系サービスと居宅介護支援事業所において、LIFE導入のためのモデル事業が実施されています。今後は訪問介護事業所にも導入される可能性が大きいでしょう。事務的な業務が増加することは間違いないので、人員配置やスタッフのパソコンスキルなど見直してみるとよいでしょう。この機会にICT化を進めてみるのもよいかもしれません。

LIFEが導入されることにより、アセスメントやモニタリングが非常に重要となります。訪問介護員の観察力アップや、サービス提供責任者の分析力、情報収集のための多職種とのコミュニケーション能力も重要となってきます。日々のケアの報告・連絡・相談や記録の内容も大切になってきますので、訪問介護員に対する通所・訪問リハビリテーションのデータ収集システム「VISIT」と、高齢者の状態やケアの内容等のデータ収集システム「CHASE」からPDCAサイクルの研修なども今のうちから行っておくとよいかもしれません。

これからの訪問介護が成長するためには

先行きに不安の多い話題が聞かれる訪問介護事業所ですが、これからの介護業界を生き残り、さらに成長していくためには何が必要なのかを考えてみましょう。

これからは、今まで以上に質の高い介護の提供体制が求められます。特定事業所加算は現状 よりもさらに上位の取得が求められ、給与の差別化も求められてきます。さらに専門的な介護の知識、技術、実践を伴い、各種加算を取得していくことも安定した経営には大切です。そのためには介護職員の労働環境も含めた待遇改善も重要で、処遇改善加算や特定処遇改善加算の取得もポイントになってくるでしょう。

人員確保は訪問介護の未来を左右する

訪問介護員の人員不足は、大変深刻な問題となっています。厚生労働省は2021年12月24日に2022年2月から実施する「介護職の月額9,000円賃上げ」のための介護職員処遇改善支援補助金の交付率案を公表しました。しかし常勤換算で1人あたり9,000円という内容で、非常勤の多い訪問介護では分配となってしまい、充分な金額とはいえません。

今後の介護報酬改定で大幅な賃上げを期待したいところですが、訪問介護事業所としての生き残り戦略も並行して考えていく必要があります。令和2年度介護労働実態調査「事業所における介護労働実態調査結果報告書」によると訪問介で働く職員のうち「60 歳以上 65 歳未満」が 13.4%、「65 歳以上 70 歳未満」が 11.8%、「70 歳以上」が11.8%と、60歳以上が全体の37%を占めています。

今後訪問介護事業所が生き残るためには、訪問介護員の高齢化の解消をはじめ、人員確保の方法を確立することが一番重要になってくるでしょう。その上で人材の定着化と上位資格取得の好循環を生み出すことが要となります。

介護保険制度だけにとらわれない仕組み作り

今後は混合介護が訪問介護事業所の行方を決めるカギとなるでしょう。インフォーマルサービスとして保険外サービスを提供することで、現在介護保険外サービスを提供している利用者だけにとどまらず、他社訪問介護を利用している利用者から保険外サービスの依頼が入り、そこから介護保険サービスにつながる可能性もあります。複数の事業所を持っている法人であれば、無資格の職員を雇用し、資格取得をしてもらいながら保険外サービスに投入し、訪問介護の担い手を育成するということも可能でしょう。

今後の事業展開のためにも在籍する訪問介護員のスキルを把握しておくことは大切です。調理のスキルが高い職員が多いのであれば、そこから調理特化型の保険外サービスを展開できる可能性も秘めています。さまざまな顧客ニーズで新しい展開を模索することが、訪問介護事業所の未来を決めるポイントになるかもしれませんので、ご参考にされて下さい。

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