介護職員等ベースアップ支援加算とは、令和4年10月から創設される新しい加算です。本記事では、算定要件や加算率、算定のための届出などを説明し、見落としがちな算定前の流れも解説します。すでに算定の準備を始めている事業所はもちろん、今から計画書を提出する場合でも参考にしてください。
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ベースアップ支援加算とは
ベースアップ支援加算とは、岸田総理大臣が就任直後に打ち出した「分配政策」の一部で、介護職員の賃金を3%程度(月額約9,000円)引き上げるという意向を受けて創設されました。
創設時は「介護職員処遇改善補助金」という形で2022年2月から9月までを対象としており、10月以降は「介護職員等ベースアップ等支援加算」と名前を変えて運用されています。なお、本記事内では「ベースアップ等支援加算」と表記して説明しています。
従来の「介護処遇改善」や「特定処遇改善加算」とは違う位置付けとなり、処遇改善を目的とした加算は下の図のように三階建ての構造となります。
算定の要件
ベースアップ等支援加算の算定要件は以下のとおりです。
- 処遇改善加算(I)~(III)のいずれかを取得していること
- 賃上げ効果の継続に資するよう、加算額の2/3は介護職員のベースアップ等に使用すること
ひとつ目の要件は、既存の処遇改善加算のいずれかを取得していることなので、難易度も低いと思われます。
ポイントとなるのはふたつ目の要件で、今回の加算の目的は「月額での賃金アップ」を目的としているため、加算総額の3分の2以上を基本給または毎月支払われる手当の引き上げに使用することが要件となります。
対象となる事業所と加算率
現行の処遇改善加算と同様に、介護サービス種別ごとに定められた加算率を介護報酬に乗じて、単位数を算出します。なお、ベースアップ等支援加算は、区分支給限度基準額の算定対象外になります。
2月から9月が対象となる「介護職員処遇改善補助金」とは、一部加算率が異なっているので、引き続き算定する場合には注意が必要です。
配分の方法
ベースアップ等支援加算は、要件さえ満たせば、対象となる職種や配分ルールに特段の指定はありません。他の処遇改善加算のように、細かい指定がないのが特徴です。
そのため、どの職種まで配分するかの事業所判断により、ひとりあたりの配分金額に差が出てくることがあります。
処遇改善加算 | 特定処遇改善加算 | ベースアップ等支援加算 | |
---|---|---|---|
対象従業員 | 介護職員のみ | A.経験技能のある介護職員 B.その他の介護職員 C.その他の職種 | 原則介護職員だが、事業者判断により柔軟に対応可能 |
配分ルール | なし | A:B:C=A>B≧0.5B | 要件を満たせば、事業者判断により柔軟に対応可能 |
算定に必要な計画書とは
ベースアップ等支援加算を算定するにあたり、事前に「ベースアップ等支援加算計画書」の作成と提出が必要になります。適用開始月の前々月末日が提出〆切となっており、例えば2022年10月から算定するためには、8/31までの提出が必要です。
ベースアップ処遇改善計画書
ここでは東京都の様式を例に、申請方法や提出先について説明します。様式は5種類ありますが、提出するのは4種類のみなので注意が必要です。
根拠資料の提出は、保管の有無をチェックリストで確認すればよいとされており、原則不要です。また、職場環境等要件に基づく取り組みの実施については、過去の取り組みではなく当該年度の実施を求めることに変更になっています。
計画書の提出と期限
東京都では提出様式をダウンロードして、所定のメールアドレスに添付して提出するか、クラウドアプリを通じての提出か、2通りの提出方法があります。提出時はExcel形式と指定があり、PDFは不可なので注意しましょう。
なお、千葉県の場合は電子申請サービスのみの受付となっています。このように自治体によって対応に違いがあるので、事前に提出方法を確認するとよいでしょう。
計画書の提出には期限があり、適用開始月の前々月末日が提出〆切となっています。〆切を過ぎてしまうと希望する開始月に適用できなくなってしまうので、計画を立てて、余裕をもって早めの申請を心がけましょう。
基本情報入力シート
事業所の基本情報を入力するシートで、必要項目を入力すると、別紙様式2-1から別紙様式2-3に転記されるようになっています。このシートは提出不要です。
別紙様式2-1 計画書_統括表
賃金改善計画やキャリアパス要件、職場環境要件や見える化要件などの具体例を入力するシートです。全5ページあるので漏れのないように記入しましょう。
別紙様式2-1 個票_処遇
処遇改善加算について、事業所の情報を入力するシートです。事業所毎に新規・継続の別や加算区分、算定対象月を記入します。
事業所毎の記入となるため、複数事業所を運営している法人が一括申請する際には、複数枚の提出が必要になります。
別紙様式2-3 個票_特定
特定加算について、事業所の情報を入力するシートです。事業所毎に新規・継続の別や加算区分、算定対象月を入力します。そのほかにも介護福祉士等配置要件やグループ別の常勤換算人数表も記入するため、事前にしっかり情報を整理しておくとよいでしょう。
別紙様式2-4 個票_ベースアップ等加算
ベースアップ等加算について事業所の情報を入力するシートです。このシートでは介護職員・その他の職員毎の賃金改善見込額、当該見込額のうちベースアップ等による賃金改善の見込み額を入力します。
配分する対象をどこまでにするか明確にしておかないと、ひとりあたりの支給額を算出することができないので、配分方法ははっきりと定めておきましょう。
算定前に行うべきことの流れ
計画書を提出したら、加算を算定するまでにおこなうべきことをまとめました。いずれもつい見落としがちな項目ばかりですので、算定までに確実に対応しておきましょう。
賃金改定の項目を就業規則に記載する
ベースアップ等支援加算は、「月次の処遇改善」に対しての加算となり、「加算総額の3分の2以上は、基本給または毎月決まって支払われる手当」で賃金改善をおこなうこととされています。それによって、賃金改定の項目を就業規則へ記載することが必要となります。
基本給の改善をおこなう場合は、新旧の基本給を比較できる表をもちいて、明確に説明する必要があります。また、基本給以外の必ず支給される手当で改善をおこなう場合は、賃金項目と金額の明示が必要です。この場合、特に名称についての定めはなく、ベースアップ等支援加算の対象賃金であることが分かれば大丈夫とされています。
処遇改善計画内容を職員に周知する
就業規則への記載と同時に、処遇改善計画の内容を書面等によって職員に周知する必要があります。
主な周知内容は次の2点です。
- 行政に提出する計画書の内容
- ベースアップ内容が記載されている就業規則
これらはすべての職員に周知する必要があるので、注意が必要です。
利用者やケアマネジャーに説明する
2月~9月の「介護職員処遇改善補助金」については、国からの補助金であり利用者負担がないため不要でしたが、ベースアップ等支援加算は介護報酬の一部として利用者負担が発生するため、事前にケアマネジャーへの説明の上、利用者及びご家族への重要事項説明書での説明と同意が必要となります。
利用者は自己負担額が増えることになるため、利用者及びご家族へ個別に説明して同意を得るのは、加算の取得日までに行う必要があるので、早めに対応するとよいでしょう。
見える化要件への対応
つい見落としがちですが、見える化要件への対応も忘れないようにしましょう。これは特定処遇改善加算の算定要件のひとつで、ホームページ上に処遇改善のための加算取得状況を掲載することを義務付けたものです。
ベースアップ等支援加算も、見える化要件に該当すると思われるので、ホームページ上の加算取得状況への追記が必要になるでしょう。
ベースアップ等支援加算の課題
平成24年に処遇改善加算が創設されて以降、介護職員の平均給与は徐々に増えていることは間違いありません。しかしその後も続く処遇改善の流れを見る限り、現状の水準ではまだ不十分といえるでしょう。
今回創設されたベースアップ等支援加算についても、当初の話では「月額約9,000円の賃上げ」という数字だけがクローズアップされていましたが、実際は事業所の分配方法によりそれに満たない場合がほとんどだと思われます。
処遇改善加算のあり方については、介護給付費分科会からもさまざまな意見が出されており、複雑な加算制度を簡素化・整理するべきとの声も聞かれています。また、介護職員の処遇改善は重要であるものの、利用者負担増につながる制度を再検討するべきという意見も出ています。
2024年度の次期介護報酬改定は、診療報酬のダブル改定となっており、大幅な改定があるのではないかと予想されています。介護職員だけでなく医療従事者の処遇改善については、重要な論点となることは間違いないでしょう。
ベースアップ等支援加算で従業員満足度の向上を
介護職員の処遇改善は、今後も継続・拡充する方向であることは間違いありません。
事業所として、加算をもれなく取って従業員に還元することで、従業員満足度を向上させていくことは必須です。従業員満足度の向上があってこそ、結果的にサービスの質の向上につながっていくものといえます。地域で選ばれる介護事業所をめざすのであれば、顧客数アップのウリを作り、処遇改善に力を入れて、従業員への還元を積極的におこないましょう。