QOL(クオリティ・オブ・ライフ)は「生活の質」などと訳され、介護福祉や医療の現場おいて重要な指標であるとされています。一人の利用者さんにとって最適な介護サービスとは何か、またどう行動すべきかを決める際、最も優先すべき指標だともいえるでしょう。
この記事では、QOLと介護との関係性、本来の意義や注意すべき点を解説し、利用者さんがより自分らしさを保ち、納得のいく毎日を送るための方法を考えます。
目次
介護におけるQOLとは何か?
QOLとは、英語の「Quality Of Life(クオリティ・オブ・ライフ)」を略した用語で、日本語では「生活の質」や「生命の質」と訳されています。
人間が人間として生きていくうえでの生命の幸福や満足を意味しています。
QOLの意義は、次のような問いからとらえることができます。
- 満足できるよう体を動かすことができるか?
- 経済的な不安がないか?
- 日常的な作業などに精神的な充足感があるか?
- 社会におけるポジションや待遇は良好か?
- 他者に貢献する活動や貢献したい気持ちを持っているか?
どの問いにも、人それぞれの「何をもって幸福、満足とするか」が大きく影響しています。QOLは、あくまでも当人の主観的な評価であり、他者には容易に推測できるものではない基準であるといえます。
介護におけるQOLは、利用者さんが幸福感や満足感を得るに至る道しるべであり、介護者には利用者さん個々のQOLを向上させるよう行動することが求められます。
QOLを向上させるには?
利用者さんにケアサービスを提供することでQOLを向上させようと努めるのが介護です。ここでは、QOL向上とは何を意味するのか、またそれに必要なこと、注意すべきことは何かを解説します。
自分らしく充実した生活を送ること
人間は誰でも「自分らしく充実した生活を送りたい」と願うものです。例えば、病気やケガで体に変調をきたした場合、医療的な観点では「入院」が選択されるかもしれません。しかし、ご本人は「入院」ではなく「在宅医療」を望んだ場合、QOLの観点からはご本人の希望に沿った医療を選択することが望ましいとされるでしょう。
この様に、人生においては一人ひとり生活スタイルや身体的特徴、趣味、仕事が違い、さらにはそれに起因する習慣や癖も異なるため、人はそれぞれ独自の人生観や価値観を持つに至ります。かつて、医療や介護の現場においては「治療」が優先される傾向にありましたが、現在は医療や介護サービスを提供するうえでも、サービスを受ける利用者さん自身が「幸福」「満足」と感じかどうかが考慮されるようになってきました。
QOLの向上には、たとえ介護が必要な状態になっても自分らしく、充実した生活を送ることを目指し、より充実した生活を送れるようにサポートすることが必要だといえます。
IADLやADLとQOLとの関連
QOLと密接な関係にあるのが、「IADL(手段的日常生活動作)」や「ADL(基本的日常生活動作」という指標です。
どちらも日常生活に必要な動作を指しますが、ADLが生活に欠かせない基本的な動作をいうのに対して、IADLはADLよりも複雑で難易度が高い動作を指します。
- ADLの例:食事、着替え、歩行、入浴、排泄、階段の昇り降り など
- IADLの例:買い物、食事の用意、電話応対、金銭管理、服薬管理 など
一般的に、IADLはADLの複数を同時に行うものであるため、ADLよりも先に難しくなることが多いとされています。人は、できないことが増えると自信を失ってその行動を避けるようになり、結果として活動量全体が減る可能性があるのです。
日常生活動作ができるということは、それだけでも充実感や満足感を生みます。IADLやADLは、利用者さんのQOLを左右する大きな要素のひとつだといえるでしょう。
QOL向上のためにまず「よく話を聞く」
QOLの向上には、利用者さんが何を必要としているかを正確に把握することが重要です。そのためには利用者さんの声に耳を傾け、何を幸福と感じるか、何があれば満足できるか会話をするのが一番の方策でしょう。
利用者さんと会話をする、すなわちコミュニケーションを図るには、利用者さんが自分の思っていることを素直に話せるような環境を作ることが重要です。ご家族の話を参考にしながら、利用者さんが大切にしてきた事柄や好きなものに関する話題を提供し、話しやすくなるような雰囲気を作るとよいでしょう。
ただし、ここで聞き取った利用者さんの幸福観や価値観を、安易に一般論や常識に照らして測ってしまわないように注意しなければなりません。自分自身の常識を振りかざすのではなく、視野を幅広く持って一旦はどんな意見も認めるなど、利用者さんにしっかり寄り添える「心の余裕」を常に持っておきましょう。
介護しすぎるとQOLが低下することがある
いくらQOLの向上を目指していても、過度に介護してしまうとかえってQOLを低下させてしまう恐れがあることには注意が必要です。
たとえば、脚力が弱っている利用者さんの中には、何とか歩けるにもかかわらず疲れるからといって車椅子ばかりを利用したがる人もいます。脚力は、ある程度歩いていなければ次第に落ちていくものなので、車椅子に頼ってばかりだといずれ歩くことができなくなるでしょう。
歩けなくなれば自由に外出もできなくなり、たとえショッピングが一番の楽しみと思っている人だとしても、それが叶わないことになります。このように、過剰な介護は「できていた機能」さえも失うこととなり、QOLをかえって下げてしまうことにもつながるのです。
先の例において介護しすぎを防ぐには、利用者さんの状態をしっかり見極めつつ、次のように絞り込んだ介護を行うのが適切かつ有効です。
- 杖や歩行器など、補助の器具を使う
- ゆっくりと短い距離を歩くことから始める
- 車椅子がすぐに用意できるショッピングセンターでショッピングにつきそう
介護にケア不足があってはいけませんが、過度な介護によるQOLの低下も避けるべきです。QOLの向上には、「ちょうどよい」サポートが必要なのです。
「話をよく聞くこと」でQOLを向上させよう
自分の思うまま行動し、快適に生活するのは、人間ならば誰もが持つ共通の願いです。しかし、高齢になればなるほど病気やケガなどが原因で「できないこと」が増え、QOLの向上はおろか維持すらできなくなることもあります。
介護においてQOLは、向上させるために一人ひとりが持つそれぞれの要素を正確に把握するため、まずは利用者さんの話をよく聞くことが大切です。そうすることによって利用者さんの感じる幸福感や充実感を認め、提供すべきサポートを検討しましょう。
常に利用者さんの状態を正確に見極め、「ちょうどよい」サポートができるように配慮しましょう。