高齢化社会が進んでいる近年において、「老人ホームを経営したら儲かるのでは?」と考え、実際にどれくらいの売り上げや年収が見込めるのか調べている方も多いのではないでしょうか。なかには、不動産投資や土地活用としての老人ホーム経営を検討している方もいるでしょう。
しかし、老人ホームの経営は厳しい面も多いため、基本をしっかり理解して綿密な計画を立てておかなければ安定した収入は期待できません。
ここでは、老人ホームの現状と収支の仕組み、種類、経営するには何が必要か、そして経営を成功させるポイントなどについて解説していきます。
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目次
老人ホームの経営は難しい?儲かるの?
高齢化社会の進行に伴い高齢者向けの施設の需要が高まっていることから、老人ホームの経営を考える方が増えていますが、実際に経営していくのは難しいことなのでしょうか。
老人ホームの利用者数・施設数、収支の仕組みから紐解いていきます。
老人ホームの定義
そもそも老人ホームは、高齢者が安心して生活し、必要なケアやサポートを受けるための施設のことを指します。高齢者が自立した生活を送ることができなくなった場合や、ご家族などがサポートできない場合に利用されます。
一般的に老人ホームは、特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの「公的施設」と、有料老人ホームやグループホームなどの「民間施設」の2種類に分類されます。
老人ホームは利用者のニーズが高いが競合も多い
老人ホームには、高齢者が求めるサービスやライフスタイルを提供するためのさまざまな施設形態とサービスがあります。
下図の厚生労働省のデータを見ると、老人ホームの利用者数は年々増加傾向にあることから、高齢化に伴い、利用者のニーズが高いことが分かります。
しかし、老人ホームの利用者数の増加と比例して、施設の数も年々増加傾向にあることから競合が多いのが現状です。
老人ホームの経営における収支の仕組み
老人ホームの経営では、月額利用料と一時入居金がメインの収入源となります。月額利用料には、家賃や食費、管理費、介護報酬などが該当し、施設によってはサービス費などが別途追加されます。
一方で、支出は初期費用と管理費用が大部分を占めます。
初期費用には、土地の購入費・建築費など施設を開設するための費用と、設備費・営業費・求人費・人件費・固定資産税などの会社を運営していくための費用が想定され、管理費用には、建設借入利息や人件費、光熱費、施設維持管理費、固定資産税、営業費、食費、医療費などが含まれます。
後述する「住宅型有料老人ホーム」を例として、厚生労働省のデータを元に算出した毎月の収支シミュレーションは以下の様になります。
収支 | 項目 | 概算費用(円) | |
---|---|---|---|
収入 | 家賃 | 11,493,560 | |
食費 | 8,419,984 | ||
管理費 | 6,596,715 | ||
介護報酬 | 5,487,211 | ||
介護サービス費 | 612,724 | ||
支出 | 固定費 | 建設借入利息 | 6,927,776 |
人件費 | 24,700,289 | ||
光熱費 | 3,176,453 | ||
施設維持管理費 | 564,433 | ||
固定資産税 | 412,334 | ||
営業費 | 439,899 | ||
事務費用 | 462,297 | ||
ソフトウェア費用 | 293,817 | ||
変動費 | 食費 | 3,814,930 | |
医療費 | 272,008 | ||
研修費 | 32,965 | ||
交通費 | 362,012 |
出典:厚生労働省「高齢者向け住まいにおける経営実態の把握のあり方に関する調査研究事業 報告書」
高齢化に伴い需要が高まっていることから、老人ホームを経営することがビジネスとして成功する可能性が高いと考える方々が増え、民間企業の参入が非常に多い傾向です。ただし、老人ホームの経営が儲かるかどうかは、さまざまな条件で大きく異なります。具体的には、経営する地域や施設の広さ、そして提供するサービスや施設の状況、職員の雇用費用、運営費用などです。
そのため、一概に「儲かる」とは言えませんが、方法次第では長期的な収益性が見込めることもあります。他の施設にはない独自サービスを用意することで差別化を図るなど、どうすれば自分の施設を選んでもらえるかを考え実践していくことが重要です。
老人ホームの種類
ここまでは経営について紹介してきましたが、実際の老人ホームにはたくさんの種類があり、どういったサービスを提供していくかを決める必要があります。
一般的に老人ホームは公的施設と民間施設に分類されると先述しましたが、公的施設は地方自治体または社会福祉法人の公的機関が運営する老人ホームであるため、この記事では民間で開業できる老人ホームについて解説していきます。施設ごとの特徴とサービス内容について見ていきましょう。
有料老人ホーム
有料老人ホームとは、食事の提供や介護、家事、利用者の健康管理などのサービス提供を通して、高齢者が毎日を快適に過ごせるように配慮された施設です。
有料老人ホームは、提供している介護サービスの内容によって名称が異なり、「介護付有料老人ホーム」「住宅型有料老人ホーム」「健康型有料老人ホーム」の3種類に分けられます。
介護付有料老人ホーム
介護付有料老人ホームは、介護を必要とする高齢者が生活支援を受けながら居住するための施設で、24時間体制の介護スタッフが食事や入浴、排せつなどの介護サービスを提供し、社会交流やレクリエーションも行われるのが特徴です。なお、介護付き(特定施設入所者生活介護)の30床以下の地域密着型の場合には、行政の公募のもと、建設することができます。
住宅型有料老人ホーム
住宅型有料老人ホームは、高齢者が自立した生活を送るための住まいとして提供される施設です。施設内には共用の施設やサービス(食堂、レクリエーションなど)が提供されることもあります。介護スタッフは常駐しますが、介護サービスを提供しないのが介護付有料老人ホームとの違いです。
健康型有料老人ホーム
健康型有料老人ホームは、高齢者の健康維持や予防に重点を置いた施設です。健康づくりに適した設計や環境を備え、フィットネス施設やスパなどの健康促進施設があります。健康管理や予防プログラム、健康相談などのサービスが提供され、利用者の健康状態をサポートするのが特徴です。
各施設とも高齢化に伴い施設の需要は年々増加していますが、それぞれサービス内容が大きく異なるため、提供したいサービスによって運営していく施設形態を選ぶ必要があります。
グループホーム
グループホームは認知症の方が自宅に近い環境の基、少人数の環境で生活する施設です。入居者同士で共に家事をするなどしながら役割参加を行い、認知症の改善や進行予防を目的にしています。要支援2もしくは要介護1以上の認定を受けた方が入居可能です。
小規模での運営が可能なため、広い土地が必要でなく、建築費などの初期費用も抑えられるのが特徴ですが、行政の公募の基、建設することができます。
サービス付き高齢者向け住宅
サービス付き高齢者向け住宅は、自由度の高い生活をしながら、安否確認などの生活支援サービスを受けられるバリアフリーの賃貸住宅です。近年よく目にする「サ高住(サ付き住宅)」とは、「サービス付き高齢者向け住宅」の略称です。
このサービスは、自立した生活が送れるものの、一人暮らしや高齢者ご夫婦などで生活に不安を感じる方が対象です。介護や医療と提携していることや、必要に応じて外出の付き添いサービスなども受けられることから、入居者は安心して生活できるのが特徴です。
老人ホームを経営するには何が必要か
老人ホームは高齢者が安心して生活ができるよう、設置者や職員に対して、さまざまな基準を設けています。これは経営する施設の形態によっても異なりますので、ここでは有料老人ホームを経営する場合に必要な基準や資格について見ていくことにしましょう。
設立する法人の基準
老人ホームを設立し運営する法人のことを設置者と呼びます。
厚生労働省の「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について」によると、設置者は個人経営や、少数の株主で独断的に運営されている法人は認められていません。さらに、事業を確実に継続するための基盤が整っていることや社会的に信用がある経営主体であるかどうかが重要となっています。
職員の基準
老人ホームの経営には、職員の人員配置にもルールがあります。事業に介護サービスが含まれる場合は、厚生労働省が定める「特定施設入居者生活介護」の設立規定にあるルールを遵守し、介護士や看護師、理学療法士など特定の資格を持つ職員を一定数配置する必要があります。
開業を検討する際には、土地や設備だけでなく、必要な人員をを確認し、確保することが重要になります。もしも運営中に有資格者が欠員した場合は、速やかに求人を出し、人員の欠員補充をする義務があります。
職員を構成する職種と必要資格
老人ホームを設立する場合は、提供するサービス内容や入居者数に応じて、特定の資格を持った職員の配置が必要です。
ここでは、介護付有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)の開設に必要な人員基準についてまとめました。
職種 | 資格など等 | 人数 |
---|---|---|
管理者・施設長 | 特になし ただし、介護現場での経験や資格保有者をである場合が多い |
1人 管理業務に支障がない場合、他の職務又は同一敷地内・隣接地にある他の事業所の職務を兼務することは可能。 |
生活相談員 | 各自治体によって資格要件が異なる ※東京都の場合は「社会福祉士社会福祉主事」「精神保健福祉士」または「これと同等以上の能力を有すると認められる者」 |
要介護者等:生活相談員=100人:1人 |
看護・介護職員 | 看護職員の場合は看護・准看護師 介護職員は特になし ※たただし、2025年以降は「認知症介護基礎研修」の保有が必須 |
要支援者:看護・介護職員=10人:1人 ※ただし看護職員は要介護者等が30人までは1人、30人を超える場合は、50人ごとに1人※夜間帯の職員は1人以上 |
機能訓練指導員 | 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護職員、柔道整復師又はあん摩マッサージ指圧師 | 1人以上[兼務可] |
計画作成担当者 | 介護支援専門員 | 1人以上[兼務可] ※ただし、要介護者等:計画作成担当者100::1を標準 |
出典:厚生労働省「特定施設入居者生活介護」
なお、 サービスごとに必要な人員配置については以下の記事でご確認ください。
設備の基準
老人ホームを運営するには、高齢者が毎日安心、安全で快適な生活を過ごせるための環境整備が大切です。そのためにも、建築基準法や消防法の基準を満たすことや保健衛生の配慮などが必要になります。
厚生労働省が定める有料老人ホームでは、居室が18.0㎡以上で居室内に便所・洗面施設が設置されている場合、廊下幅を1.4m から1.8mの幅に設定する必要があります。この幅だと、車椅子同士がすれ違えるスペースが問題なく確保できます。
また、基本的に個室で床面積は一人あたり13.0㎡以上としています。居室に加えて一時介護室を設けること、と定められていますが、居室で介護サービスを行う場合は、一時介護室は作らなくても問題ありません。
保健衛生の面から、浴室や洗面所、トイレは、居室内に設置しない場合は、すべての入居者が利用できるような規模・数を設ける必要があります。他にも食堂や医務室など提供するサービス内容に応じて必要な設備がありますので、有料老人ホームの運営を検討する際は、必ず各自治体の有料老人ホーム設置運営指導指針などを確認しましょう。
運営の基準
有料老人ホームの設立に関して、厚生労働省では、10個のカテゴリーに分けて基準を設けています。それぞれの詳細を確かめて施設を作っていくことが大切です。
1 | 管理規程の規定の制定 | 入居者定員、介護基準、施設やサービスの利用料など等 |
---|---|---|
2 | 名簿の整備 | 入居者と身元引受人の氏名や連絡先など等 |
3 | 帳簿の整備(住宅型) | 施設の修繕や改善レポート、費用の受領記録、クレーム対応記録入居者に行った介護サービスなど等 |
4 | 個人情報の取り扱い | 個人情報保護法に基づいたて情報をの取り扱っているか |
5 | 緊急時対応 | 避難訓練の定期的な実施、地震や火災などの防災マニュアルなど等 |
6 | 医療機関との連携 | 緊急時にかかる医療機関の確認、入居者が医療機関を選ぶ自由の保障など等 |
7 | 介護やその他サービス | 近隣の介護サービス事業所の情報提供義務、入居者が介護サービスを選ぶ自由の保障など等 |
8 | 運営懇親会の設置 | 管理者、職員、入居者による運営懇親会を定期開催し、入居者の状況やサービス状況を説明するなど等 |
9 | 業務継続計画の策定 | 緊急事態の発生において入居者への対応や業務再開を図るための計画書の作成・見直し、職員への周知など |
10 | 衛生管理 | 感染症の発生や、まん延防止の措置・指針の作成など |
老人ホーム経営を成功させるための6つのポイント
老人ホームの開業や経営は、国などで定められたさまざまなルールを遵守した上で初めて開業できることをわかっていただけたのではないでしょうか。ここでは、老人ホーム経営を成功させるために重要となるポイントを解説します。
良質なサービスの提供
老人ホームに入居する高齢者やご家族は、新しい環境での生活への不安からサービスの質を重視する傾向にあります。事業者は利用者の健康管理や介護の他に、食事やレクリエーションなどの生活支援サービスの提供にも力を入れ、施設内での職員とのコミュニケーションや利用者同士の交流も大切にするなど、利用者が不安や孤独を感じず、快適に過ごせる環境を整えることが重要です。
職員の教育・研修・管理
良質なサービスを提供するためには、業務内容を適切に理解した職員が必要です。普段から職員の教育・研修を定期的に行い、技術や知識を向上させることで、サービスの質を高めることが重要です。
しかし、たくさんの職員を管理するには時間と労力がかかります。時間を捻出するために、事務的な業務の効率化を目指しましょう。たとえば、毎月発生するシフトや勤務形態一覧表の作成作業では、専用の介護ソフトを利用するととても便利です。
「CWS for Care」は職員のシフト作成や実績管理、勤務形態一覧表の出力がワンストップでできるサービスです。シフトにかかる業務時間を短縮できるため、職員の教育や研修にかける時間を増やすことができるでしょう。
適切な価格設定
利用者の自己負担額や公費負担額などは、適切に設定するようにしましょう。利用者の心身状況に応じて、価格設定を検討することが大切です。
また、日頃から利用者やご家族とのコミュニケーションを大切にし、料金の相談などがあれば誠意をもって応じるようにしましょう。料金の詳細や支払い方法などについてもきちんと説明し、理解してもらうことで後から支払いのトラブルが起こりにくくなります。
マーケティング
マーケティングの方法はさまざまですが、地域のニーズや競合施設の情報を把握し、他施設との差別化を図ることが重要です。たとえば、高齢者の方が集まりやすいイベントを行ったり、魅力的なサービスを提供するなどが考えられます。サービスの特色で他施設と差別化することで、集客につなげることができます。
健全な財務管理
介護施設の開業、経営には多額の資金が必要となるため、健全な財務管理が必要です。
施設の運営に必要な設備や物品の計画、または収入源になるサービス内容などを事前にしっかり検討して進めることが望ましいでしょう。サービス以外で必要になる資金調達や投資、収支管理なども適切に行い、財務面での安定を確保することが重要です。
ICT化による間接業務の効率化
介護施設における職員の管理や育成業務は、ICTを活用して少ない時間で効率的に行うことが望ましいでしょう。介護ソフトの開発が進み、介護報酬の算定から職員のシフト作成、管理までを行えるようになってきました。
なかでも、ケア以外のシフト管理などの間接業務を効率化することにより、職員の満足度やケアの質向上に繋がっていくことが分かっています。たとえばシフト作成や実績管理、勤務形態一覧表の抽出ができるCWS for Careのサービスを導入することで、無理なく効率的なシフト管理が実現できます。
基本をしっかり理解して、老人ホームの経営を検討しよう
介護施設の経営において、施設を常に満室にし収益を上げていくためには、時代に合わせて常にサービスの内容を見直し、改善していく姿勢が必要不可欠です。
「介護施設の経営で稼ぐ」というと、「富裕層向けにサービスを充実させ、利用料を高単価に設定する」という方法が考えられます。しかし、金銭面だけに焦点を当てた事業行っては、事業を継続するうえで重要なコンプライアンスやリスクマネジメントが疎かになってしまう可能性が高くなります。過去には不祥事が原因で介護事業から撤退させられた法人もありますので、決して儲けだけを取らないように留意しましょう。
大切なのは、あくまで利用者に安心、安全で、快適に過ごしてもらうことです。ニーズに合わせ、利用者やご家族に選んでもらえるようなサービスを提供し続ける施設経営をしていくことが、安定した経営には不可欠でしょう。