デイサービス経営が厳しいのは本当?改善ポイントを倒産データから読み解く

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デイサービス経営が厳しいのは本当?改善ポイントを倒産データから読み解く

2022年のデイサービス(通所・短期入所介護事業)の倒産件数は69件を記録し、ますます経営が厳しくなっていると予測できます。この記事では倒産統計のデータや厚生労働省の資料から、デイサービスの経営が厳しい理由や近年の状況について解説します。分析結果をもとに、デイサービスの経営を成功させるための改善ポイントについてもまとめました。


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デイサービスの倒産状況

株式会社東京商工リサーチの調査によると、2022年における介護事業者の倒産件数は2000年以降で最多の143件でした。そのうち通所・短期入所介護事業の倒産件数は全体の約48%を占める69件で、前年より52件も増加しています。増加の原因はデイサービスの連鎖倒産が考えられますが、その件数を差し引いても、通所・短期入所介護事業の倒産件数は増加傾向にあります。

独立行政法人福祉医療機構の2021年度のデータより、デイサービスのうち49%が赤字経営という調査結果もあり、経営の厳しさが伺えます。

【通所介護の経営状況(5ヶ年度同一事業所)】
  2017年度 2018年度 2019年度 2020年度 2021年度
赤字事業所割合 33.6% 36.0% 36.5% 40.8% 49.0%

引用:2021年度(令和3年度)通所介護の経営状況について|独立行政法人福祉医療機構

倒産件数の増加には新型コロナウイルス感染症の流行と物価高騰、最低賃金の引上げなども影響していると考えられます。実際にコロナが直接的、および間接的に影響した倒産件数は全体の63件でした。感染を懸念した利用控えによる稼働率低下、および収益の悪化、感染症防止に伴うマスクや消毒液などの物品購入費の支出などのコスト増により、経営が圧迫された可能性があります。また、後述しますが、競争の激化も原因のひとつとして考えられます。

デイサービスの経営が厳しい理由

上記の倒産データや、厚生労働省が公表した介護事業経営概況調査などを参考に、デイサービスの経営が厳しい理由をまとめます。

収益の減少

厚生労働省は、2021年度の介護報酬改定率について0.7%のプラス改定になっていると発表しましたが、実際にはデイサービスの運営状況は厳しい状況となっています。以下は「令和4年度介護事業経営概況調査結果」から抜粋した、デイサービスにおける収支差率です。

【デイサービスにおける収支差率(税引前)】
  令和2年度決算 令和3年度決算 増減
コロナ補助金を含んだ場合 3.8% 1.0% △2.8%
コロナ補助金を含まない場合 3.2% 0.7% △2.5%

引用:令和4年度介護事業経営概況調査結果の概要|厚生労働省

コロナ補助金の有無にかかわらず、前年度よりマイナスに転じています。その原因について次に詳しくまとめます。

利用者単価の低下

福祉医療機構のデータによると、2020年度から2021年度にかけて、デイサービス利用者の単価が低下傾向にあることがわかります。

【通所介護の経営状況(5ヶ年度同一事業所)】
  2017年度 2018年度 2019年度 2020年度 2021年度
利用者単価 9,226円 9,021円 9,073円 9,358円 9,223円

引用:2021年度(令和3年度)通所介護の経営状況について|独立行政法人福祉医療機構

その結果、全体の収益も減少しています。2021年度の介護報酬改定で基本報酬が引き上げられているため、本来であれば収益は上がる傾向にあるはずです。しかし、新型コロナウイルス感染症による特例「2区分上位算定」の廃止などにより、収益の低下が見られます。

さらに加算の算定率の低下も要因のひとつとして考えられます。令和3年介護報酬改定で、LIFEの活用が算定要件に含まれる加算なども増えました。算定のハードルの高さが、算定率の低下につながっていると考えられます。

そのほかコロナ禍による利用控えも、利用者単価に大きな影響を与えています。

経費の増加

光熱費や人件費などの経費が増加していることも、収益の減少に深くかかわっています。特に人件費の増加が、経営を圧迫していると考えられます。独立行政法人福祉医療機構の調査では、通所介護の人件費率は以下のとおり増加傾向にあります。

【通所介護の経営状況(5ヶ年度同一事業所)】
  2017年度 2018年度 2019年度 2020年度 2021年度
人件費率 66.0% 66.9% 67.2% 69.2% 70.9%

引用:2021年度(令和3年度)通所介護の経営状況について|独立行政法人福祉医療機構

厚生労働省老健局の「介護事業経営実態調査のデータ分析」の資料からも、事業全体の費用のうち、給与などの人件費が多くの割合を占めることがわかります。デイサービスにおける給与費は全体の65.9%です。

【費用の割合(サービス類型別)】

費用の割合(サービス類型別)のグラフ
引用:介護事業経営実態調査のデータ分析|厚生労働省老健局

介護業界は人材不足が続いており、離職を防ぐために給与を引き上げるなどの対策をとった場合、経営に影響を及ぼす可能性があります。さらに採用コストや、採用にかかわる人件費の増加なども経営を圧迫する要因と考えられます。

人材確保の難しさ

人件費や採用コストなどの経費を抑えるためには、スピーディーな採用や事業所に必要な人材を過不足なく配置することが鍵となります。しかし実際には、介護業界特有の採用の難しさが、人材確保を難航させています。

厚生労働省老健局の調査資料によると、採用が難しい理由として「他産業に比べ労働条件が良くない」と答えた介護事業所は全体の55.9%でした。介護従事者の平均給与額は年々増加傾向にありますが、他産業と比べると依然として低い状態です。さらに半数以上が「他社との人材確保競争が激しい」と答えています。

特にデイサービスは、ほかの介護サービスに比べ、介護職員の給与における中央値と平均値が低い傾向にあります。

【常勤介護職員ひと月あたりの給与の平均と分布(サービス類型別)】

常勤介護職員ひと月あたりの給与の平均と分布(サービス類型別)
参考:介護事業経営実態調査のデータ分析|厚生労働省老健局

優秀な人材を確保するためには、単に給与水準を上げるのではなく、福利厚生など付加価値をつける方法も考えるべきでしょう。

競争の激化

認知症対応型デイサービスなどの事業者数は減っていますが、一般的なデイサービス事業者は以下のとおり増加傾向にあります。

施設・事業所数 平成30年 令和元年 令和2年 令和3年
通所介護 23,861 24,035 24,087 24,428
介護予防認知症対応型通所介護 3,754 3,664 3,536 3,445
地域密着型通所介護 19,963 19,858 19,667 19,578
認知症対応型通所介護 4,065 3,973 3,868 3,753

引用:令和3年介護サービス施設・事業所調査の概況|厚生労働省令和2年介護サービス施設・事業所調査の概況|厚生労働省令和元年介護サービス施設・事業所調査の概況|厚生労働省

事業者数が増える分、利用者確保のための競争は激しくなります。その時代の利用者のニーズを適切に把握し、ほかの介護事業者にはないウリを打ち出し、集客にも力を入れることが必要です。

デイサービスの経営改善のポイント

デイサービスの経営を改善させるためのポイントを4つ紹介します。

営業戦略の見直し

競争が激化するなか収益の増加を目指すには、利用者を増やす営業戦略が必要です。介護サービスは価格による差別化が難しいため、サービスの質の向上や、ほかの介護事業者にはない付加価値を付けて自社の魅力をアピールしましょう。

特に事業所の強みは、そのまま集客に直結しやすい要素のひとつです。たとえば、適切なニーズをもとに、それに応じた機能訓練プログラムでサービスの質の高さをアピールするなど、自社の強みを構築しましょう。

労働環境の整備

職員の離職率が高い場合、その分採用コストの負担が大きくなるため、人材が定着しやすい環境を作ることが重要です。また、人材の入れ替わりが激しいと、サービスの質にも影響を与えます。女性だけではなく、男性の育休も奨励されている背景もあるため、育休や産休、介護休暇の制度を整備するなど、労働環境を見直し、働きやすい環境を構築しましょう。

また、働きやすい職場としてイメージアップを図ることで、採用にもプラスの影響を与えます。丁寧なOJTを含む教育制度が充実している、柔軟な働き方が可能など、給与以外の付加価値を作ることが大事です。

加算の算定

加算の算定率が低いと、収益が減収することになります。取りこぼしがないように、算定要件、状況を見直し、なるべく加算が取得できるようチャレンジすることが必要です。

ただし、介護報酬改定で算定要件が追加され、現場の事務負担が増している加算もあります。たとえば、口腔機能向上加算は令和3年度の介護報酬改定で、LIFEの活用を条件とする区分が新設されました。算定するにはサービスを提供するための人員配置だけでなく、LIFEを活用する体制や時間の確保についても考えなければなりません。

新しい加算を算定する際には、同時に業務効率化の対策についても考えることが必要になります。

ITの活用

収益アップを図るために、人件費を抑えることが重要なポイントです。その手段のひとつとして、介護ロボットや介護ソフトなどのテクノロジーを活用する方法があります。

たとえばシフト管理サービス「CWS for Care」なら、利用者数に応じた必要な人員基準を自動でチェックできるので、シフト作成・管理業務や勤務形態一覧表作成などの間接業務を効率化することができます。

無駄な間接業務を減らすことで、サービスの質向上、残業代などの削減にも繋がり、経営の改善につながるでしょう。

デイサービスの経営成功の鍵は差別化と稼働率

厚生労働省が公表したデータによると、2040年には介護人材69万人の不足が予想されています。

第8期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について

第8期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数についてのグラフ
引用:介護人材確保に向けた取り組みについて | 厚生労働省

高齢者の人口に対し、介護事業所や介護施設が不足することは避けられない事態であり、今後ますます介護のニーズは増大し、デイサービスの需要も高まると考えられます。

ただし今後、介護事業者が増加するにつれ、競争がさらに激化する可能性もあります。数ある通所介護事業所のなかで順調な経営を維持していくには、利用者ニーズを十分にアセスメントしたうえで他社と差別化を図り、稼働率を上げることが必要になるでしょう。さらに人材の確保や定着を図るための労働環境の見直し、業務効率化を図った上での加算の算定など、あらゆる側面で対策を練ることが重要です。

まずは近隣の競合他社について調査・比較、自社の強みを見直し、適切なニーズを把握することから始めましょう。

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