働き方改革とは、職員一人ひとりがライフワークバランスのとれた生活を送ることができるよう、柔軟な働き方が選べる職場づくりを行うことです。人材不足が深刻化する介護業界でも、現場の働き方改革が求められます。
この記事では働き方改革関連法や利用できる助成金など、介護現場の働き方改革に必要な情報をまとめました。具体的な事例もあわせて紹介します。
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目次
介護業界における働き方改革とは
働き方改革とは、働く人々が健やかに自分らしく暮らすことを目的に、多様で柔軟な働き方が選択できる社会を実現するための改革です。
介護業界は「低賃金」や「仕事がきつい」などのイメージから、人材不足や採用の難しさの問題を抱えており、長時間労働が起きやすい傾向にあります。そのため、介護業界における働き方改革では、労働者の処遇改善や長時間労働の是正、職場の環境整備などの取り組みが求められます。
働き方改革に取り組むことは、結果的に魅力的な職場づくりにつながり、生産性向上や採用にも好影響をもたらすと考えられています。今後も人材が不足すると予想される介護業界において働き方改革は非常に重要であり、早急に現場の意識改革が必要です。
働き方改革に関して介護業界で整備された項目
政府は介護業界で働き方改革を推進するため、処遇改善や職場の環境整備などに関連する項目を整備しています。以下で詳しく解説します。
介護職員の処遇改善に関する加算
有資格者や、技能・経験のある介護職員を正しく評価し、処遇を改善するため、介護業界では以下3つの加算が整備されています。
- 介護職員処遇改善加算
- 介護職員等特定処遇改善加算
- 介護職員等ベースアップ等支援加算
いずれも加算額を介護職員の基本給や手当に充てることで、給与改善を図ることができる加算です。離職や採用難の原因の1つに低賃金や待遇面があるため、介護職員の処遇を改善し、イメージアップを図ることが求められます。
なお、上記の3つの加算については令和6(2024)年度の介護報酬改定において一本化および、現行の処遇改善の目的を4つに分類され「介護職員等処遇改善加算」となります。施行は、6月1日からです。
令和6年度中は準備期間として要件の適用が猶予され、従前の加算率が維持される方向性ですが、最新の情報を正しく理解しましょう。
ICTの利用促進
政府は、介護現場に介護ソフトや見守りセンサーなどの導入を促進する事業を進めています。ICT機器の導入により現場の生産性を高めることができるため、人材不足の課題解決に役立つと考えられています。たとえば介護ロボットを導入すれば、介護業務の身体的・精神的負担を軽減でき、「介護の仕事はきつい」というイメージを払拭することにもつながります。
各自治体で助成金についてアナウンスされているため、ICT機器の導入を目指す事業者は以下の記事もチェックしてみてください。
経営の大規模化や協働化
政府は2040年を見据え、医療・福祉サービスの改革を掲げました。特に医療・福祉サービスにおいては、生産性の向上を目標に掲げており、効率的にサービスの提供を行うためプランをいくつか打ち出しています。
そのうちの1つが「経営の大規模化・協働化」です。医療法人や社会福祉法人の合併や、事業の協働化を進めることで、地域のニーズに合わせたサービスの提供、安定した経営基盤による魅力的な職場づくりにつなげたいと考えています。
介護現場で必要な取り組み例
介護現場の働き方改革においては、具体的に以下のような取り組みが必要になります。
- 36協定(サブロク協定)の締結
- 勤務間インターバル制度の導入
- ICTの導入・活用
- 多様な働き方の促進(フレックスタイム制の導入など)
- ハラスメントなどの防止を目的とした相談窓口の設置
- 就業規則の整理
- 休暇を取得しやすい職場づくり
- 職員の処遇改善・キャリアアップできる制度の導入
次に、実際に働き方改革の取り組みを行い、成功した事例について解説します。
ICT機器を活用し、生産性を向上
介護付き有料老人ホームを運営する株式会社クオレでは、ICT機器を活用して現場の改革を行いました。
助成金を利用しながら、給与明細の電子化システムと勤怠管理システムを導入したことで、ペーパーレス化による経費の削減、時間単位での有給休暇の取得促進につながっています。勤怠処理と給与計算の業務負担が減り、残業時間も削減できました。
また、全事業所にネットワークシステムを整備し、定例会議をリモートで行うことで、業務の効率化を実現しています。あらゆるICT機器の導入と活用により、業務にかかる時間を作編でき、生産性の向上につながりました。
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仕事と家庭を両立できる制度整備で離職率低下
東京都で介護サービスなど12ヶ所の事業所を運営する株式会社トーリツでは、女性の多い職場ならではの働きやすい環境を作るため、8つの勤務シフト制度を設定しました。たとえば「子連れ・孫連れ出勤制度」や、銀行や役所に立ち寄る時間が作れる「中抜け制度」など、ユニークな勤務制度によって柔軟な働き方を実現しています。
結果、出産・育児休業後の女性の職場復帰率はほぼ100%となり、離職率も低下しました。制度の設立をきっかけに、同社では男性の育児休暇取得も増えつつあるといいます。
労働環境を整備し、人材の定着率アップ
特別養護老人ホーム「トータスホーム」を運営する社会福祉法人 幸知会では、残業削減の取り組みを実施し、人材の定着を目指しました。1日10時間勤務・週休3日制の勤務体制を導入したところ、プライベートの時間が充実し、職員がしっかりリフレッシュできるようになったといいます。結果、離職率は業界平均を下回る1.2%程度になりました。
さらにキャリアパス制度を導入し、人材をしっかり評価してやりがいを生む仕組みを作りました。働きやすい職場というイメージを築き上げることで採用にも好影響が出ています。
働き方改革関連法について注目すべきポイント
働き方改革関連法のなかで、特に介護業界で注目すべきポイントを詳しく解説します。
年次有給休暇の取得義務化
働き方改革の一環として、労働基準法の一部が改正され、従業員に年5日の有給休暇を取得させることが義務付けられました。有給休暇は従業員の要望を確認したうえで、企業側が取得日を指定して消化させることができます。
公共財団法人 介護労働安定センターの「令和4年度 介護労働実態調査結果」によると、平均取得日数は7.8日となっています。全体の15%程度は取得日数が5日に達していないため、早急に改善が必要です。
参考:介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書|公共財団法人 介護労働安定センター
時間外労働の上限規制
労働基準法が改正され、2019年(中小企業は2020年)から時間外労働の上限が設けられました。36協定締結時の残業時間は、月45時間・年360時間が上限です。上記を超えて残業を課する場合は特別条項付きの36協定の締結が必要で、年720時間以内などの上限があります。
「令和4年度 介護労働実態調査結果」によると、1週間の平均残業時間数は、1.7 時間です。サービス提供責任者は特に残業が多い傾向にあり、無期雇用職員の約1割ほどが1週間あたり10時間以上の時間外労働を行っています。企業側は時間外労働が必要最小限に留まるよう努力することが求められています。
参考:介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書|公共財団法人 介護労働安定センター
同一労働同一賃金
同一労働同一賃金とは、正社員や非正規雇用労働者など、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を目指す考え方です。正規雇用者と非正規雇用者が同じ内容の業務を行っている場合は、同じ賃金を支給することが求められます。
ただし能力や職務内容など客観的に見て違いが明確な場合は、待遇差があっても問題となりません。たとえば介護福祉士の資格の有無、事業所独自のキャリアアップ制度による待遇差は合理的とみなされます。
割増賃金率引き上げ
2023年より中小企業に対し、割増賃金率の引き上げが行われました。具体的には、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が大企業と同じく50%になります。
介護業界の場合、夜勤を課する機会も多いため、計算方法に注意が必要です。月60時間を超える残業が深夜帯(22:00~翌5:00まで)に及ぶ場合、深夜の割増賃金率25%を加え、75%で計算しなければなりません。
介護業界の働き方改革に関する助成金
介護現場での働き方改革を進めるために、助成金を利用するのも1つの手です。働き方改革で利用できる助成金を以下にまとめました。
助成金名 | 内容 | |
---|---|---|
働き方改革推進支援助成金 | 労働時間短縮・年休促進支援コース | 年5日の年次有給休暇取得義務に関して、取り組みを行う中小企業に対し、成果目標に基づき、経費の一部を支給 |
労働時間適正管理推進コース | 労働時間の把握や労務書類の適正な管理などに関し、取り組みを行う中小企業に対し、成果目標に基づき、経費の一部を支給 | |
業務改善助成金 | 生産性向上を目指し、設備導入や人材育成を行い、かつ事業所内の最低賃金を引き上げを行った企業に対し、かかった経費の一部を支給 | |
キャリアアップ助成金 | 非正規雇用の労働者のキャリアアップを目指し、正社員化や処遇改善に関する取り組みを行った企業に助成金を支給 |
働き方改革に取り組み、介護現場の労働環境を改善しよう
介護現場の働き方改革においては、給与アップなどをはじめとした労働者の処遇改善や、長時間労働の削減に関する取り組みが求められます。そのためには職場環境の見直しが重要です。
令和6年介護報酬改定では、介護報酬が1.59%引き上げられ、そのうちの0.98%を介護職員の賃金、残りの0.61%が各介護サービスの基本報酬などに振り分けられました。労働環境が改善すると生産性の向上や、魅力的な職場を作り上げることによる離職率の低下、人材確保などあらゆる面でメリットがあります。
まずは現場の問題点を洗い出し、業務改善を図れるよう、優先順位高く取り組む必要があります。また、令和6年介護報酬改定では、生産性向上推進体制加算も新設され、ICT機器などを活用した業務の効率化や、多様な働き方が選べる制度の整備などの業務改善がさらに求められるので、よく確認しましょう。