介護施設・事業所を適正に運営するには、介護報酬の仕組みを正しく知ることが大事です。この記事では加算や減算などの仕組みについて詳しく解説します。さらに特定施設入居者生活介護サービスを例にとり、加算・減算の種類を一例で紹介します。特に2024年の介護報酬改定で一本化され、注目を浴びている「介護職員等処遇改善加算」については、加算の要件についても詳しく解説します。
目次
介護の加算とは?介護報酬の仕組みを解説
介護報酬は利用者にサービスを提供した際に介護施設・事業所に支払われる報酬のことで、大きく基本報酬と加算・減算に分けられます。このうち基本報酬はサービスの提供時間やサービス内容、利用者の要介護度などに基づいて算定します。
介護の加算とは、算定要件による人員の配置や提供するサービスなど、定められた要件を満たした際に算定できるもので、基本報酬に上乗せされます。一方で減算は、人員の欠如や、運営基準を満たしていない際に基本報酬から減算されます。
介護報酬を算出する際は、「基本報酬+加算-減算」の計算式を用います。
特定施設入居者生活介護の加算・減算一覧
ここでは、特定施設入居者生活介護を事例に、加算と減算について簡単な概要と単位数をまとめました。
加算・減算名 | 概要 | 単位数 |
---|---|---|
人員基準欠如減算 | 看護職員または介護職員の配置数が基準を満たない場合に減算 | 基本報酬を70%に減算 |
身体拘束廃止未実施減算 | 身体拘束に関する適切な対策が講じられていない場合に減算 | 基本報酬の10%分を減算 ※外部サービス利用型は1%分を減算 |
高齢者虐待防止措置未実施減算 | 虐待の発生、または防止のための適切な対策が講じられていない場合に減算 | 基本報酬の1%分を減算 |
業務継続計画未策定減算 | 感染症や災害が発生した場合を想定し、業務継続に向けた計画を策定していない場合に減算 | 基本報酬の3%分を減算 |
入居継続支援加算 | 痰の吸引など医療的ケアが必要な利用者が一定数以上いる場合に加算 | Ⅰ:36単位/日 Ⅱ:22単位/日 |
生活機能向上連携加算 | 外部の理学療法士などと協力して個別機能訓練計画を作成・実行した場合に加算 | Ⅰ:100単位/月 Ⅱ:200単位/月 |
個別機能訓練加算 | 機能訓練指導員など多職種が共同して個別機能訓練計画を作成・実施した際に加算 | Ⅰ:12単位/日 Ⅱ:20単位/月 |
若年性認知症入居者受入加算 | 若年性認知症の方を受け入れ、適切な体制を整えた際に加算 | 120単位/日 |
協力医療機関連携加算 | 医療機関と定期的に会議を開催するなど、連携して医療体制を整えている場合に加算 | 相談・診療を行う協力医療機関と連携する場合:100単位/月 上記以外:40単位/月 |
口腔・栄養スクリーニング加算 | 6ヶ月ごとに利用者の口腔および栄養状態を確認し、介護支援専門員に情報を共有した際に加算 | 20単位/回 ※6ヶ月に1回まで |
科学的介護推進体制加算 | LIFEに情報を提出、かつLIFEからのフィードバックを活用し、科学的介護を推進している施設が加算 | 40単位/月 |
障害者等支援加算 | 外部サービス利用型特定施設において、精神障害など支援を必要とする利用者に基本サービスを行った場合に加算 | 20単位/日 |
退院・退所時連携加算 | 医療機関などから退院または退所した高齢者を受け入れた際に加算 | 30単位/日 |
退居時情報提供加算 | 利用者が医療機関に入院する際、当該利用者の同意を得たうえで必要な情報を医療機関に提供した場合に加算 | 250単位/人 ※利用者1人に対し1回限り |
夜間看護体制加算 | 常勤の看護師を人員配置基準に追加して配置するなど夜間の体制を強化している場合に加算 | Ⅰ:18単位/日 Ⅱ:9単位/日 |
看取り介護加算 | 医師により回復が見込まれないと判断された利用者に対し、多職種が連携して看取りを行った際に加算 | 死亡日以前31日以上45日以下 Ⅰ:72単位/日 Ⅱ:572単位/日 |
死亡日以前4日以上30日以下 Ⅰ:144単位/日 Ⅱ:644単位/日 |
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死亡日以前2日又は3日 Ⅰ:680単位/日 Ⅱ:1180単位/日 |
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死亡日 Ⅰ:1280単位/日 Ⅱ:1780単位/日 |
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認知症専門ケア加算 | 認知症介護に関する研修を修了した職員を一定数配置している場合に加算 | Ⅰ:3単位/日 Ⅱ:4単位/日 |
高齢者施設等感染対策向上加算 | 施設内で感染症が発生した際に、適切な対応を行える体制を整備している施設が加算 | Ⅰ:10単位/月 Ⅱ:5単位/月 |
新興感染症等施設療養費 | 新型コロナウイルス感染症など新興感染症でパンデミックが起きた際に、感染対策や医療機関との連携を行っている場合に加算 | 240単位/日 |
生産性向上推進体制加算 | 施設にテクノロジーを導入し、職員の負担軽減の取り組みを行った際に加算 | Ⅰ:100単位/月 Ⅱ:10単位/月 |
ADL維持等加算 | 利用者の自立支援、重度化防止のための取り組みを行い、ADLの維持または改善が見られた場合に加算 | Ⅰ:30単位/月 Ⅱ:60単位/月 |
サービス提供体制強化加算 | 経験や資格を持った介護福祉士などを配置し、一定の要件を満たした施設が加算 | Ⅰ:22単位/日 Ⅱ:18単位/日 Ⅲ:6単位/日 |
介護職員等処遇改善加算 | 介護職員などの月給賃金や職場環境など処遇の改善を行った施設が加算 | Ⅰ:12.8% Ⅱ:12.2% Ⅲ:11.0% Ⅳ:8.8% ※総報酬単位数に上記の加算率を掛けて単位数を算出 |
【2024年最新】介護職員等処遇改善加算
令和6(2024)年度の介護報酬改定において特に注目したい加算は、「介護職員処遇改善加算」「介護職員等特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ等支援加算」が一本化された「介護職員等処遇改善加算」です。職員間での配分ルールが廃止されるなど制度の複雑さが払拭され、より多くの介護施設・事業所が算定しやすい加算となりました。
詳しくは以下の記事も参考にしてください。
算定要件と単位数
介護職員等処遇改善加算は4つの区分に分かれ、それぞれキャリアパス要件と職場環境要件を満たす必要があります。特定施設入居者生活介護における介護職員等処遇改善加算の算定要件と単位数を以下の表でまとめました。
制度の主旨 | 算定要件 | 単位数 | |||||||
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キャリアパス要件 | 職場環境要件 | ||||||||
Ⅰ 任用要件・賃金体系の整備 |
Ⅱ 研修の実施など |
Ⅲ 昇給の仕組みの整備 |
Ⅳ 賃金額の改善 |
Ⅴ 介護福祉士等の配置 |
区分ごと1以上満たす ※令和7年度からは2つ以上(生産性向上の区分は1つの必須を加えて3つ以上) |
区分全体で1以上満たす ※令和7年度からは区分ごとに1つ以上(生産性向上の区分は2つ以上) |
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Ⅰ | 事業所内の経験・技能のある職員を充実 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ‐ | 12.8% |
Ⅱ | 総合的な職場環境改善による職員の定着促進 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ‐ | 〇 | ‐ | 12.2% |
Ⅲ | 資格や経験に応じた昇給の仕組みの整備 | 〇 | 〇 | 〇 | ‐ | ‐ | ‐ | 〇 | 11.0% |
Ⅳ | 介護職員の基本的な待遇改善・ベースアップ | 〇 | 〇 | ‐ | ‐ | ‐ | ‐ | 〇 | 8.8% |
月額賃金改善要件について
介護職員等処遇改善加算では、上記でまとめたキャリアパス要件と職場環境要件に加え、月額賃金改善要件も満たさなければなりません。月額賃金改善要件は、令和7年度から運用が始まるⅠと、現行の介護職員等ベースアップ等支援加算が未加算の施設を対象にしたⅡに分かれます。それぞれの要件を以下の表にまとめました。
月額賃金改善要件Ⅰ ※令和7年度から適用 |
月額賃金改善要件Ⅱ ※現行の介護職員等ベースアップ等支援加算が未加算の場合に適用 |
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要件 | 新加算Ⅳ相当の加算額の1/2以上を、月給の改善に充てる | 前年度と比較し、介護職員等ベースアップ等支援加算相当の加算額の2/3以上を新たに基本給などの改善に充てる |
例 | 特定施設入居者生活介護においては新加算Ⅳの単位数8.8%のうち、1/2にあたる4.4%分を基本給の改善に充てる必要がある。 ただし新加算Ⅲ以上を算定している場合であっても上記を実行していれば、要件を満たしたことになる。 |
特定施設入居者生活介護における現行の介護職員等ベースアップ等支援加算の加算率は1.5%のため、2/3にあたる1.0%分の加算額を賃金改善に充てる。 |
介護の加算・減算は正しく算定しよう
介護報酬を計算する際には、基本報酬と加算・減算の仕組みを正しく知ることが大切です。算定できる加算を取得していない場合、採用や人材定着など事業所の経営にも影響を与える可能性があります。
たとえば見守り機器やICT機器などを導入し職員の負担軽減を行えば、生産性向上推進体制加算を算定でき、それに伴い人材の定着やモチベーションアップを後押ししてくれます。介護職員等処遇改善加算を算定し、賃金アップを推し進める事業所としてイメージアップを図れば、採用にも好影響を与えるでしょう。
また、算定しているのに要件が満たせなくなった場合は、利用者の安全・安心を確保するためにも直ちに体制などの見直しが必要です。正しく算定するには、日々の現場におけるチェック体制も整えましょう。